第二話 秘密の森のパンツ
「――ということがあったのです。天から星の降り注ぐ夜を背景に、燦然と輝く姫さまのパンツ。あれは心が震えるような美しい体験でした」
「ホント、ドロシーはヘンタイだね」
ドロシーの私室。ドロシーのベッドに腰かけて、星空のもとでのパンツ鑑賞談を聞かされていたのは、下着を司る大悪魔のコットンだ。見かけは幼女であるが、禁術の下着魔法について右に出るものはいない、最強の使い手である。
「本題はここからです」
「パンツのくだり必要だった?」
「流星群観測の後、私は姫さまに聞いたのです。流れ星に何をお願いしたのですかと。答えは、エルフのお姫さまと仲良くなれますように。とのことでした」
「エルフのお姫さま?」
「近く行われる、エルフ族と人間族の交流行事のために、エルフの一団がここシルクノシタギアを訪れるのです。エルフ族の姫君である、リーネ殿下も御出でになります」
ドロシーはそこで一度話を区切ると、ポケットから一枚のパンツを取り出した。
パンツの生地は薄い緑。フロントには小さなリボンが一つだけ。バックプリントに広葉樹のシルエットが白く描かれ、そこに添えられるように "elven forest" という言葉が洒落た斜め字フォントで書かれていた。緑色から優しさが、生い茂る樹木のシルエットから豊かさがそれぞれ感じられる品である。言うまでもなく、フィルの持ち物だ。
「貴女の分析によれば、このパンツに使われている希少素材はハイペリオンの葉とのことでしたね?」
「うん。まちがいないよ」
ハイペリオン。それはエルフが守護する森にあるという聖樹のことである。森林そのものを崇めるエルフ族にとっても、特別な意味を持つ植物なのだとされている。
部外者の立ち入りを好まないエルフの森の奥深くにあるとされており、エルフ族以外の者は触れるどころか、見ることすら叶わない。まさしく秘中の秘である。
「エルフ族によって、徹底的に守られているハイペリオンです。材料の調達は困難を極めるでしょう」
「まあ、魔物を倒すのとワケが違うからねー」
「ええ。下手なことをすれば戦争になりかねません。これを作った職人は常軌を逸していますね。一体どうやって材料を調達したのやら……。それはともかく、今回、外界との接触に消極的なエルフの王族との貴重な交流の機会が訪れました。このパンツに挑戦するのは、まさに今というわけです」
「具体的な作戦はあるの?」
「ええ。その計画が実行可能か、貴女に相談したいのです」
ドロシーはパンツを机に置くと、それを指し示しながら言った。
「貴女は、貴重な材料が使われているために、姫さまのパンツは複製できないと言いましたね?」
「うん」
「では、パンツから素材を取り出すことは可能ですか?」
「それならできると思う。現物が有るのと無いのとじゃ、ぜんぜん違うからねー」
その返答を聞き、ドロシーは頷く。
「私が調べたところ、高位のエルフが身に着ける下着には、ハイペリオンの葉を用いた染料が使われているとのことです」
「まさか……」
「そうです。エルフの姫君、リーネ殿下のパンツを頂くのです!」
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