第三話 下着魔法今昔

 エルフ族の内情について、出回っている情報は限定的だ。

 森の奥深くに土地を持ち、外界とほとんど関わらずに暮らしているということ。強力な精霊魔法の素質を持っているということ。人間族と比べて、かなりの長命であるということ。

 一般人の理解はおおむねこの程度である。


「エルフは外界との交流に消極的なことは間違いありません。とはいえ、まったく接触がないかというと、そんなことはありません。現代の人間族が使う精霊魔法の中には、過去にエルフ族からもたらされた技術が数多くあるのです」

「そのくらいは知ってるよ」

「そうでしょうね。しかし、同時に人間族からエルフにもたらされた技術もあることは、あまり知られていません」

「それは?」

「それは、下着魔法です」


 下着魔法。現代のシタギア王国では禁術とされているが、古代は人間族も多く利用していたのだ。


「貴女に説明しても猿に木登りですが……下着魔法は古代の人間族が生み出した極めて原始的な魔法です。もともと精霊との交信が苦手な人間族は、魔法の源泉として下着に目を付けました。常に体に密着し、性的エネルギーの根源である部位を守る下着には、生命力や情動などの力が蓄積しやすく、魔力への転用が可能であることに気づいたのです」

「そうだよ。おもいっきり人間向きの魔法なのに、なんで禁止しちゃうかなー? ホント、ばっかみたい」

「それは文化的側面から仕方ないといえるでしょう。性欲に訴えかける魔法が多いのは、やはり健全な社会性に反していますから」


 下着魔法が禁術とされたのは近世のことだ。性的なエネルギーを魔力源とすることから、下着魔法は一般的な感性から見て卑猥な結果を引き起こすものが特に強力である。社会的に成熟した人間族はこれを嫌ったのだ。


「エルフ族にもたらされたこの技術は、大きな衝撃を与えたようです。自然の精霊と容易に交信できるエルフからしたら、下着を魔法の源泉とする技は極めて奇抜に見えたことでしょう。同時に、精霊の力に頼らない魔法をとても警戒したようです」


 精霊は性を持たない。これを力の源とした魔法に対して、精霊魔法は相性が悪いのだ。いかに強力な精霊魔法の素質があったとしても、これでは守りが薄くなってしまう。


「そこでエルフ族がとった対策の一つが、王族の特別な下着なのです。聖樹ハイペリオンの強力な霊性と、人間族から教わった下着魔法の技術を融合させた、まさに対下着魔法専用の下着といえるでしょう」

「ふうん。じゃあ、わたしにとっては苦手な相手ってことかな?」

「そうなりますね」


 コットンはベッドから立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて言った。


「へー、おもしろいじゃん。わたしも興味わいてきたよ、エルフのパンツ」


 コットンは下着を司る大悪魔。こと下着魔法に関しては、まさしく専門家である。対下着魔法と来れば、腕が鳴るのだろう。


「パンツ自体が目的ではなく、その材料抽出が目的であることは忘れないように」

「もちろん。今からエルフのお姫さまに会うのが楽しみだね」


 コットンはくっくっと怪しげに笑った。やはり悪魔といえば、考えることは悪巧みだろう。仕事をこなしてくれることに文句はないが、いささか心配になるドロシーであった。


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