第十二話 ダブルゲット
空は快晴。あちこちに残った大きな水たまりが、煌々と輝く太陽を反射していた。
ドロシーとフィルは洞窟の外に出ていた。王城から連れ立ってきた他の一団は、先に馬車の準備を始めている。
「もう帰っちゃうの?」
「うん。短い間だったけど、楽しかったよ」
「また気が向いたら来なさいよ」
「うん。ありがとう!」
フィルと向かい合ったアサとリネンが別れの挨拶を交わす。ちなみに、三人とも今はきちんと全身着衣している。当たり前だが。
「そういえば、焼けちゃった衣は大丈夫なの?」
「うん。神鳥様の羽がいっぱい落ちてたから、新しいのが作れるみたい」
「そっか! よかったね」
サンダーバードが去った後に羽が散らばっていて助かった。あれがなければフィルは定期的に下着踊りをする羽目になるところだったのだ。ドロシーはフィルの後ろで密かに胸をなで下ろした。
「それじゃあね!」
三人は互いに手を振り合い、フィルは笑顔で滞在を終えた。
*
行きと違って穏やかな帰路を辿り、無事に城に帰り着いた夜。ドロシーは私室にてコットンと密かに仕事に取りかかった。
「素材は集まりましたね」
「この通り!」
コットンがドロシーの前に両掌を広げて差し出す。右手には神秘的な艶をもつ美しい羽根。左手には激しく力強い雷の塊が輝いている。
「よろしい。こちらが今回複製するパンツです」
ドロシーは机の上に二枚のパンツを並べた。
一枚は清々しい空を写し取った青空のパンツだ。サンダーバードの羽が使われている。
もう一枚は荒々しい雷の力が宿る荒天のパンツだ。サンダーバードの雷が使われている。
「始めなさい」
ドロシーの指示でコットンが前に出る。コットンの手で伝説の素材が輝き初め、共鳴するように二枚のパンツも輝き始める。やがて光は分裂し、これまで同様に複製が完了した。机の上にはパンツが四枚。どこからどう見ても本物同然だ。
「出来たね」
ドロシーが出来上がったパンツを広げ、細かに検分する。横ではコットンが胸を張り、得意そうな顔でドロシーを見上げていた。基本的に生意気なコットンであるが、下着の悪魔としての腕に間違いはない。仕事は完璧だった。
「いいでしょう。今回の仕事はこれにて完了です」
話は終わったとばかりにコットンに背を向けて、出来上がったばかりのパンツに目を落とすドロシー。しかし、その顔には堪えきれない笑みが薄ら浮かんでいた。
なんと二枚同時に手に入れてしまったのだ。今から明日が楽しみで仕方がない。
「ちょっと待って」
「なんです?」
スッと笑みを引っ込めたドロシーはコットンへと振り向く。
「これ、余分に拾えたからさ。もう一枚複製してもいい?」
そう言ってコットンが取り出したのはサンダーバードの羽根だった。確かに、あの素材は舞台周辺に多く散っていた。何枚か持ってきても分かりはしなかっただろう。
「はあ? 何の意図で? 汚らわしい悪魔の分際で姫さまと同じパンツを穿くなど、身の程を弁えなさい」
「だって、下着の大悪魔が三枚組の市販のパンツじゃ格好付かないでしょー?」
そう言ってスカートをめくり上げるコットン。その下半身を包んでいるのは、ドロシーが城下町で購入してきた三枚組で銅貨一枚の安物パンツだ。
「よくお似合いですよ」
「パンツはわたしにとって武器でもあること忘れてない?」
ドロシーは思案する。コットンは強力な下着魔法を行使できるが、安物の下着はコットンの全力に耐えられない。結果として、強力な魔法を放つ度に下着を使い捨てているのが現状だ。今後の仕事を思えば、切り札として用意しておくことも必要かも知れない。
「仕方がありません。許しましょう」
「やった!」
コットンは喜んでもう一枚の空色パンツを複製した。早速その場で穿き替えると、恍惚とした表情で感想を漏らした。
「はふぅ……ぜんぜんちがう……」
ドロシーとしては不本意だったが、この対価は今後の働きで返してもらうしかないだろう。
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