第十一話 コットン、しっかり仕事をする
サンダーバードは大きく羽ばたいて晴れた空へと帰って行った。もう雷の音はしなかった。
緊張が解けたのだろう。舞台の上ではフィルたち三人がへたり込んでいる。
「やったあ……」
フィルの呟きを皮切りに、全員に笑顔が伝播してゆく。厳しいことの多いアサも今は笑っていた。ドロシーは舞台へ駆け寄ると、フィルに話しかける。
「ご立派でした。姫さま」
「ありがとう、ドロシー」
「やるじゃない、見直したわ」
「フィルちゃん、すごかったよ」
「二人もすごかったよ。わたしなんかずっとびっくりしっぱなしだったんだから」
共に踊った二人からも労いの言葉をかけられ、フィルは満足そうに微笑んだ。
ドロシーはその和やかな様子を眺めながら、心昂ぶらずにはいられなかった。
近くで見るフィルの姿は踊っていた時とはまた違った魅力をもっていた。濡れたパンツは独特なシワを作り出している。離れていた時よりも細やかに見えるその魅惑的な模様を、ドロシーは目に焼き付けた。
普段はふっくらとフィルの身体を守る柔らかな綿のパンツも、濡れてしまえば平時と全く違う姿を晒す。ハッキリと身体のラインに沿って貼り付く生地は重く、色も濃く見える。
もっと近づいて長く見たかったが、そういうわけにもいかない。
「姫さま、風邪をひいてしまいます。すぐに戻って着替えた方が良いでしょう」
「そうだね。じゃあ二人も一緒に」
フィルはアサとリネンを連れ立って戻っていった。パンツの貼り付いた尻が可愛らしく揺れながら離れてゆく。本当ならば一緒について行って着替えを手伝いたいところだが、今は他に用事があった。
ドロシーは舞台を降りると、サンダーバードの去った儀式場を見渡す。
舞台以外の場所は草が生い茂り、そこに散らされた雨滴が日の光に煌めいている。ドロシーは茂みに分け入ると、目当てのものを探り出した。
「起きなさい、コットン」
「うう……」
焼け焦げたドレス姿のコットンがヨロヨロと立ち上がる。さすがは下着の大悪魔といったところか。サンダーバードの雷を受けても耐えられたらしい。
「ひとまず姫さまは無事でした」
「わたしは無事じゃない」
「そんなことよりも素材です」
ドロシーは手近な茂みに手を伸ばすと、そこに引っかかっていた鳥の羽を拾い上げた。サンダーバードの置き土産だ。儀式場全体に多くの羽が散っていた。
「これは素材になりますね?」
「うん」
「しかし、雷のほうは……」
こちらは拾えるものではない。対策を立てる間もなくサンダーバードは飛来したし、フィルの身の安全を優先していて考える暇もなかった。これほどの機会は二度とないだろうと思うと、さすがのドロシーも気落ちした。
「ドロシー。わたしを誰だと思ってるの?」
ドロシーが顔を上げると、コットンが手の平を差し出した。その上には青白く輝く不思議な球体が浮かんでいる。それは小さく明滅を繰り返し、パチパチと破裂音を響かせていた。
「まさか、それは……!」
「サンダーバードの雷。きちんと受け止めたんだから」
踊りの失敗に怒ったサンダーバードが雷を落とした時、コットンは前に出てフィルたちを守った。その時に手に入れたようだ。
「ふふん、褒めてよね」
「でかしました、コットン!」
これでサンダーバードの素材が二つ揃った。どうやら新たなコレクションはつつがなく手に入りそうだ。
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