第六話 姫さま。そのパンツ頂戴いたします

 ドロシーとコットンは、フィルの留守を狙って再びパンツを漁った。目当てはヒュドラの毒液で染められているという、茄子柄の綿パンツだ。

 目当てのパンツと、採取した毒液入りの小瓶を並べる。いよいよ複製の時だ。


「じゃあ、はじめるね」

「ええ」


 コットンがパンツと小瓶に手をかざして集中するとパンツが眩い光に包まれた。やがて光は二つに分裂してゆく。光が収まると、そこには瓜二つのパンツがもう一枚置かれていた。


「できた。同質の新品だよ」

「よくやりました」


 ドロシーが手に取って広げると、文句のつけようがない出来栄えである。軽く見ただけでは全く区別がつかない。細心の注意を払ってみれば、股布の薄い染みや布のヨレ具合など微細な違いはあるものの、フィルがそこまで見ることはないだろう。


「この後はどうするの?」

「姫さまは入浴の後、いつも私が手渡したパンツをお召しになります。ですので、今日の入浴後にこのパンツを渡して穿いていただき、明日の入浴前に脱いだところを、こちらの複製とすり替えします」


 そしてフィルが一日穿いた脱ぎたてのパンツは、そのままドロシーの物となる算段だ。


「なるほどね。まあ、こっからはわたしの仕事じゃないから、がんばってね」

「ええ」


 ドロシーは胸の高鳴りを感じながら、計画の時を待った。


        *


 作戦決行の日。

 今、ドロシーの目の前でフィルが腰のパンツに手をかけた。少し珍しい茄子の柄が描かれた、ふわふわの綿パンツだ。計画通り、前日の入浴後にドロシーが手渡したパンツ。まさか脱ぎたてを奪われるとも知らず、何の疑いもなく穿いたパンツ。

 フィルの繊細な手が衣擦れの音と共にパンツを下ろしてゆく。そして片方ずつ足を抜き取ると、洗濯籠へと入れた。


「じゃあ、まっててね」

「はい。ごゆっくりどうぞ」


 フィルが浴室へと姿を消す。


 浴室内から水音が聞こえてくるのを確認すると、ドロシーはポケットから一枚のパンツを取り出す。コットンの力によって複製された新品のパンツだ。


「姫さま、お許しください」


 フィルに聞こえないよう小さく呟くと、洗濯籠のパンツとすり替えを行った。積み重ねてきた様々なことが、この一瞬に集約されているのだ。

 心臓の鼓動が聞こえるほどに高鳴っていた。

 ドロシーの手には一枚のパンツ。フィルが脱いだばかりで、まだ少し温かい。

 今手にしたパンツは舐めまわしたりしない。これは大切なコレクションの一つになるからだ。その代わりに、静かにパンツを顔へと引き寄せると、小さく頬ずりをした。


「ああ、姫さま……」


 麗しの姫君、フィルの秘密を一つ手に入れたのだ。その実感が体の中心から湧き上がって、じんわりと全身を温かくした。

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