第八話 この際だから二枚頂く

 きゃいきゃいとかしましい三人の声を背に、ドロシーは洞窟の影に身を潜めて小さく呟いた。


「コットン、居るのでしょう?」

「よくわかったね」


 篝火の届かない暗がりから現れたのは、下着の大悪魔コットンである。


「あの調子であれば本番は近いでしょう。姫さまにこれほどの恥辱を与えるのです。相応の報酬は必ず頂きますよ」


 ドロシーは声に怒りを滲ませ、拳を握りしめて言葉を吐く。


「本人は恥辱を受けてる感じじゃないけど……」


 コットンがフィルたちを覗き込むが、三人は仲良く歓談している。すっかり打ち解けた様子で楽しげな雰囲気がこちらまで届いてきた。


「裸踊りが恥辱でなくてなんなのです。私以外の前に姫さまの裸体を晒すなど……。くっ!」

「ドロシーならいいんだ。まー、そうやって自分を棚に上げるところ、大好きだけどね」

「私のことはどうでもいいのです。それよりもパンツです」

「うん」

「サンダーバードの素材を使ったパンツは、二枚ありましたね?」


 一枚は今、フィルが穿いている物だ。サンダーバードの羽を使っているという空色のパンツである。ドロシーは思い出していた。もう一枚、サンダーバードの雷を使ったパンツがフィルの部屋にあったことを。


「そういえばあったね」

「そちらは雷を使った物のはず。元々二種類とも城にあったわけです」


 インゴム族がどちらの伝統衣装を焼失していてもスペアはあったことになる。このような事態を意図してのことではないだろうが、結果的にパンツは国を救うこととなった。


「現物の素材があるということは、サンダーバードはどこかのタイミングで出現するはずです。羽と雷、今回の仕事でどちらも頂きますよ」

「二度手間は避けたいし、わたしもそれにさんせーかな」


 そもそも二度目のチャンスがあるかは怪しいところである。インゴム族の失態には腹が立って仕方がないドロシーであったが、伝説の存在であるサンダーバードを出現させる機会という点ではこれ以上の僥倖はなかった。


「姫さまの頑張りを無駄にすることは出来ません。必ず両方の素材を持って帰ります」

「姫さまは頑張った挙げ句にパンツ盗られるわけだけどね」

「黙りなさい」


 背後ではフィルたち三人が下着姿で踊りの練習を再開していた。篝火を前に踊るフィルは真剣だ。今回は神鳥の衣装を持たないリネンですら、その面持ちは緊張感に満ちている。フィルの提案通り、本番にも出るのだろう。

 洞窟の外では雷雨が激しさを増している。サンダーバードとの邂逅は近い。


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