第七話 パンツ一枚の付き合いなので
アサによる稽古が続いていた。
洞窟の一角、明るい篝火に照らされながらフィルは踊り続ける。パンツ一丁で。
始めた時こそ赤面しっぱなしで、もじもじと動きもぎこちなかったが、さすがに慣れてきたため踊りにもキレが戻ってきており、実際に踊りを担当していたリネンと動きを合わせるところまで進むことができた。
休憩時間。三人はパンツ一枚のままで焚火の近くに寄り、暖をとりながら話をしていた。
「いいわね。この調子ならもう少しで本番にできるかも」
「ほんと? よかったあ」
アサに褒められて胸をなでおろすフィル。この踊りには国の存亡がかかっているのだから責任重大だ。
「あの、えっと、王女様。本当にありがとうございます」
フィルの態度が堂々としてきた一方で、恐縮しっぱなしなのはリネンだった。元はというと、今回の騒動はリネンが発端だと、フィルはドロシーから聞かされていた。
「わたし上手に踊れなくて、転んで神鳥様の衣を汚しちゃったんです。洗って、なんとか早く乾かそうとしたんだけど、火に近づけすぎちゃって、それで……」
「そうだったんだ……。でも、大丈夫だよ。わたしもがんばるからね! それから――」
フィルはリネンの手を取った。
「わたしのことはフィルって呼んでいいよ」
「えっ、えっと……フィル、ちゃん?」
「うん! リネンちゃん! これでお友達だね」
「あ、ありがとう」
フィルはアサの方にも笑顔を向けて言う。
「もちろんアサちゃんも一緒!」
「……まあ、そこそこ出来るみたいだから、友達になってあげるわ」
「ふふふっ、嬉しい!」
そこで、ふとフィルはリネンの方を見た。今は三人ともパンツ一枚で喋っているが、これは本番に可能な限り似せた環境で練習するためである。実際の衣装を使っているフィルとアサはともかく、リネンはどういう状況なのだろうか。
「ねえ、リネンちゃんはその、神鳥様の衣? が燃えちゃったなら、別に脱がなくてもよかったんじゃない?」
「あうう……。だって、アサちゃんが脱げって」
「当り前じゃない。なんで私たちだけパンツ一枚で踊らないといけないのよ。恥ずかしいでしょ?」
「やっぱり恥ずかしいんだ」
フィルから見れば、あまりにも堂々としているものだから最初から平気なのだと思っていた。聞いてみないと分からないものである。
「アサちゃんは衣装なんだからいいよ。わたしのパンツ自前のやつなんだから、もっと恥ずかしいのに……」
そう言って、リネンは二人の視線から隠すように体を丸めた。リネンのパンツはどこかの町で買ったのだろう。ごく平凡な既製品らしかった。ハートの模様がちりばめられたシンプルで可愛らしい柄である。じろじろ見るのも可哀そうなので、フィルは目を逸らしてから言った。
「わたしも一応自前のパンツだよ。そんな特別なものだなんて知らなかったけど」
「ああ、そういえばそうだったわね。私たちとしてはそれがあって助かったけど、フィルからすると巻き込まれて災難だったんじゃない?」
「そんなことないよ。これのおかげで雨が止むし、二人とお友達になれたから」
この事態が収まったら、今度はお城に遊びに来てほしいなと、フィルは思った。
半裸の付き合いの効果……か、定かではないが、練習を通して三人はよく打ち解けることができたのだった。
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