序 あぶない人はすぐそばに(二)
「ウォシャさん。姫さまの洗濯物です。頼みます」
「はい。確かに」
ウォシャと呼ばれた洗濯係の若い女性は洗濯籠を受け取ると、その場で軽く中を検めた。そして、そこに納められた下着を見ると顔を曇らせる。
「あの、ドロシーさん」
「なんですか?」
「大変申し上げにくいのですが、その……姫さまの下着のことで」
「!」
「半年ほど前からでしょうか、どうもよく汚すようになっておられるようで、それも普通の汚れ方ではないというか……しかも、最近は頻度が高くなってきていまして、姫さまのご様子に何かおかしなところなどはありませんか?」
ウォシャの声色、表情からは真剣にフィルのことを案じていることが察せられる。
突然の指摘にドロシーは内心で少しばかり焦ったが、決して顔には出さない。これもまた鍛え上げられたエリートの実力が成せる業である。
「ウォシャさん、貴女の仕事は何ですか?」
「私の仕事は、姫さまの洗濯係です」
「であれば、洗濯以外のことを考えるのはおやめなさい」
「し、しかし――」
ドロシーはカッと目を見開き、告げる。
「黙りなさい。姫さまのことは私がよく存じ上げております。貴女は黙ってパンツを洗っていればよいのです!」
「ひっ! で、出過ぎた真似を! 申し訳ありません!」
「分かればよろしい。頼みましたよ」
硬直するウォシャを後に、ドロシーは颯爽と洗濯場を去った。
*
「姫さま、ただいま戻りました」
「あっ、ドロシー」
ようやくフィルの私室に戻ったドロシーを、愛らしい笑顔が出迎えた。
フィルの可愛らしさは全世界の少女の中でも最高。ドロシーはそう思っている。それに寄り添うため、ドロシーは血の滲むような努力の末に、王女専属の世話係という地位を手に入れたのだ。
「ね、また本を読み聞かせて?」
「あら、ご自分で読めないようでは、まだまだお子さまですね」
「むー。自分で読むのと、読み聞かせてもらうのは違うんだから」
「はいはい。分かっておりますよ。さあ、今日は何を読み聞かせましょうか」
「うーんとね、それじゃあ――」
最も愛しい人に寄り添う地位を手に入れた。手に入れたら、次が欲しくなった。
今の地位ですら容易に手に入らないもの。最も近しい者にすら普通は見せないもの。そういったものを見たくなった。知りたくなった。手に入れたくなった。
もっともっと、愛しのフィル王女の秘密に触れたい。
こちらに背を向けて本棚に向かうフィルに、そしてその下半身へ目をやる。
あの薄いネグリジェの下には、先ほどドロシーが手渡した下着が収まり、フィルの秘密を守っている。そう思うだけで胸が高鳴った。
明日の入浴後も、おそらくドロシーは同じ行為に及ぶだろう。しかし、このところ、それでは満たされなくなりつつある。
ただ一時的に楽しむだけではダメ。手に入れたい。自分のものにしたい。
王女の脱ぎたてパンツを集めて自分の物にしたいという欲求が膨れ上がり、ついに抑えきれないところまで達しようとしていた。
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