アイデンシティ

【第８回ハヤカワSFコンテスト二次選考作】　毎日22時更新

　2070年、太平洋上の人工都市国家パシフィカは犯罪密度の非常に少ない合理的な社会となっていた。人間の行動・意志決定に影響を与える環境の分析から生まれた、その場に即した行動を誘発させる環境をつくる技術〈全覚言語〉の普及により、人々は常に合理的な行動を選択することに成功し、平穏で安定した生活を送っていた。
　しかし、街区で殺人事件が発生。原始犯罪（暴行、窃盗、強姦など、原始時代から行為そのものは存在していた犯罪）課のエン・バーク捜査官とダイエル・クシー準捜査官は現場に直行。犯人は取り押さえられたが、殺意はなく、なぜ殺したのか自分でも分からないという。駆逐されたはずの〈有害全覚文〉の可能性を疑ったバークは、〈全覚言語〉の研究者、武田洋平と共に事件の調査に乗り出すが……。