私は期待していたのです

 レベルC、Bを貫いて展望層のレベルAまで続くミッドオーシャンホテルの外壁部に面したエレベータには無数のビル林を掻い潜って陽光が差し込んでいました。

「まさか、お前たちに窮地を救われるとはな」

 バークは息を漏らしましたが、武田は表情一つ変えませんでした。

「僕はあなたを助けに来たのではありません」

「どういう意味だ」

「カハラさんから聞きました。ダイエル・クシーさんの死をきっかけに、あなたは感情抑圧反動に陥った。全覚文を憎み、その系を破壊するためにエイドリアン・チェンと結託し、全覚言語汚染を行った。今のあなたは、紛うことなきテロリストです」

 バークはそれを鼻で笑いました。

「何を言ってる、タケダ。いや、確かに、三か月前までの私なら、今の私に対して同じことを言っただろうな。全覚言語オールセンスは合理性の――パシフィカの象徴と。しかし、全覚言語オールセンスの神話は波間に消えた。そう、海ある限り波が消えぬように、全覚言語オールセンスある限り有害全覚文は消えない。全覚言語オールセンスが人を――クシーを殺したことに変わりはないんだ」

「それが、より多くの人を救うための手段だったとしてもですか?」

 バークは何も答えませんでした。

 そんな状況下で、たとえばトロッコ問題のレバーを持たされた状況下で、人はどのような選択を取るべきか。そこで最も〝パシフィック〟に振舞うことを得意としていたのは、他でもエン・バーク自身なのでしたから。

「そのために、お前は自らの手を汚せるか」

 バークが間を開けてからそう答えたとき、カハラが目を見開きました。

「どうして――」カハラがそう一歩踏み出したとき、

 バークがバークらしからぬ優しい口調で言いました。

「お前も、タケダと一緒に探してくれたのか」

 長らく使わずに凝り固まった筋肉を総動員させて、純朴な少年のような笑顔を浮かべて見せます。

「ありがとう、マリラ」

 バークがその口調を、その笑顔をパブリックで最後に見せたのは十年以上前のことでした。そしてログに残る限り、その相手こそ、カハラだったのです。

 ひいっ、と息を逃がすように吸い込んで、目を見開いたカハラは爪を立てて腕を思い切り掻きむしりました。しゃがみこみ、震える手でそれを続けました。

「――あなたが〈ロスト・ワン〉に降ったのは」

 再び武田が口を開きます。

「トロッコ問題の合理的解法を社会で実践するこのパシフィカに非合理性を覚えたからですか?」

「さあ」

 吐き捨てるようなその言い草に、武田は眉をひそめました。

「お前の言う通り、そしてマリラの診断の通り、私は感情抑圧反動の中にある。終身名誉パシフィカン、エン・バークはもういない。私は感情の理性の間で揺れ動く脆弱な人間になり下がった。そう、私が自らの意志で〈ロスト・ワン〉に降ったのは、パシフィカに非合理性を見出したからじゃない。私自身の言葉で言えば、私自身、パシフィカを憎んでるからだ」

「その感情を、はりぼての理論で包んで飲み込む訳ですね」

「私だってただ感情の向くままに暴れはしない。何故、私は――進化が悠久の時の果てに作り上げた感情モジュールがここまで憎しみという感情を私に想起させたか、それを考えていた。いや、考える間もなく明白だった」

「何ですか」

「タケダ、お前は知っているか」

「創発性全覚文の犠牲者五人の、死の理由ですか?」

「ああ、そうだ」

「それはもちろん、彼らの死こそより良い未来に社会を導くための――」

「嘘だ」

 バークの断定に、武田は眉をあげました。

「正確には、一人だけ、別の理由で殺されていた。誰だか分かるか?」

「まさか」

 信じられないという目つきで武田は答えます。

「ああ、ダイエル・クシーだ」

 そう。そうなのです。

「そんな、何故だ――」

 武田はエレベータの天井付近に備え付けられたカメラ越しに私を見ました。

 何故、それを武田だけ知らなかったのか。簡単な理由です。私はバークだけにそれを伝えていたからです。

「私を感情抑圧反動に追い込み、パシフィカの仇敵に仕立て上げる。そのためだ」

 間もなく、レベルA――展望層です。カハラの〈リュシャン〉が無機質な声を上げました。


 当時好きだった女の子を、いくら仮想空間とは言え、容赦なく殺す選択をすることができたのは、エン・バークくらいでしょう。

 そう、バークほど合理的で理性的で、感情という旧時代の遺物に打ち勝てる人間を私は知りませんでした。エン・バークはパシフィカが更なる最適化を図る上で、その住民パシフィカンのモデルケースに相応しい人間だったのです。

 それ程の人物であれば感情その他人間に仕組まれた非合理的な意志決定モジュールを克服することができるのか。しかし、マリラ・カハラというカードを用いても、バークはパシフィカンであり続けました。自身にとって、恋心も、憧れも、オキシトシンその他あらゆるホルモンの奔流も、合理性という絶対スケールの前では塵に等しかったのです。

 しかしダイエル・クシーは違う意味で、バークにとって重い存在でした。

 何故なら、彼女はバークと比肩する程のパシフィカンであり、そしてバークよりも優れた頭脳の持ち主であり、バークの目には贔屓目抜きに彼女はパシフィカの宝だったからです。あるいは、バークが彼女のメンターであり、その宝を腐らせることなく伸ばすことは彼にとって、合理的に考えて大きな使命だったからです。

 そのダイエル・クシーを目の前で失ったとき、社会的リソースの大輪が目の前で散ったとき、それをバークの統計眼はどう評価したでしょうか。そして、それが合理的社会パシフィカの〝意志〟によって起こされたものだと知ったとき、この物語をどう解釈するのでしょうか。

 ホモ・サピエンス史上最高のパシフィカン、エン・バークはそれでもパシフィカンであり続けるのでしょうか。

 そう、これを解釈するのならば、ホモ・サピエンスに対する試練とでも言うことができましょう。ヒトはユートピアの構成員に相応しい存在になれるのか。その試験なのです。

 果たして、それをあの日、私があなたたちと出会ったとき、私はバークだけにその真実を告げました。

 そう、人間らしいノン・パシフィック言葉を使うならば、私は期待していたのです。

 けれども、クシーの死は、エン・バークという人間の封印された感情モジュールを叩き起こし、その情動の渦が確固たる価値観を打ち崩してしまったのです。

「――私には最早、パシフィカの辿る道は合理的なものとは思えない」

 エレベータに降り注ぐ陽光を背に受けて、バークは断言します。

「パシフィカの合理性は至極功利主義的な考え方だ。最大多数の最大幸福。幸福の総量最大化マックスサム問題だ。だからトロッコ問題は倫理的な思考実験ではなく、合理的思考力の適性試験として扱われている。けれども、マックスサムは時に、ひどい犠牲を生むことがある。一人の死によって百人の生活が格段に良くなるならそちらを取るインセンティブが無条件に高くなる」

「けれども、その繰り返しによってこそ、悲劇の総量もまた最小化されるというものでしょう」

「どうだか。お前には言うまでもないだろうが、もう一つ最適化問題には考え方のスキーマがあるだろう?」

最大不幸の最小化ミニマックス問題、ですね。最も不幸な人の不幸を最大限和らげる。弱者の救済。けれども、過度な救済型の政策を続けていけば、必ずやジリ貧になる。進化競争の中で、ミニマックスはマックスサムに勝てないんですよ」

「そんなこと言われなくても分かっている。けれども、当の犠牲者はそれで納得するのか? あなたが死ぬことで世界は救われます。だからさっさと死んでください――それでお前は死ねるのか?」

「――よ」

 カハラがぽつりと、しかし力強い言葉で言いました。彼女はぐったりとエレベータの壁面に背中を投げていましたが、既に痒みは落ち着いていたようでした。

「感情抑圧反動の典型的な二極思考。マックスサムの欠点と対面するや否や、ミニマックス信者に蔵替わり」

「何とでも言えよ、

 その挑発にカハラは乗りませんでした。

「自らが二極思考であることを忘れ、それを正当化すること」カハラは手を壁につきながら、ゆっくりと立ち上がります。

「それがエン、今のあなたの行動原理」

「だったら何だ」

「あなたは今、パシフィカの敵になったのよ」

「だから?」

「それは、パシフィカの思い描く筋書きの通りでしょう?」

 バークは表情を崩しませんでした。まるで往年の終身名誉パシフィカンのように冷静で、迷いのない目をしていました。

 その瞳の海のように深い色に、一瞬カハラは吸い込まれそうになったのでしょう。また強く自分の腕を抱き、後ろの壁にぴったりと頭をつけました。

「お前たちの剣幕を見るに」

 バークは二人の顔を見て言いました。

「ただ、助けに来てくれたって訳でもないみたいだな」

「もちろんです」武田が答えます。

「僕たちはあなたを止めに来たんです」

「全覚言語汚染か」

「ええ、そして、あなたを治療し、元の世界に引き戻す」

 バークの表情が一瞬固まりました。けれどそれも束の間、腹を抱えて、バークは笑い転げました。せいぜい口角を僅かに上げることがやっとの、表情に乏しいエン・バークという人間が、生まれてからずっと今まで溜め続けたありとあらゆる笑いを解放するかのように、破顔し、高笑いし、嘲笑います。

 武田もカハラも、その間全く動けませんでした。

 笑い疲れたバークが後ろの窓に寄り掛かり、一つ息を吐いたときには、エレベータは既にレベルBの高層部分まで到達していました。半透明のドームからレベルC、Bの緑の街に白い光が溢れている中、その影に塗りつぶされた顔で、バークは二人を見下ろしました。

「本気で、私の感情抑圧反動を治せば、元通りのエン・バークに戻るとでも思っているのか」

「たとえあなたが思っていなくとも」再びカハラが前に踏み出しました。

「主治医である私が責任を持ってあなたを治します」

「治す、か」

 その響きはバークには皮肉に聞こえたみたいでした。

「なあタケダ、病的素質を治すことが本当に平和に繋がったか」

「〈オーダーメイド神経治療CNS〉は無用の長物ではありませんでした。多くの犯罪者予備軍が、犯罪者にならない初めての世界だったんですよ、東京は」

「けれど、犯罪者予備軍は増え続け、少子高齢化と相まって、社会保障費の爆発が国を傾かせた。お前の否定したミニマックス社会だ」

「何が言いたいんですか、バーク」

「私を治すことが〈パシフィカ〉の望みか、って訊いているんだ」

「あなたを殺すというのが〈パシフィカ〉の思惑ってこと?」

 カハラが震える声で言いました。

「妥当な推測だな」

 バークは思い切り口角をあげ、自嘲しました。

「何たって、私はそう――テロリスト。社会の敵。そう、マックスサム社会には敵が必要なんだ。最小限の犠牲で、その社会のあらゆる膿を吐き出す。それが私に与えられた役割。パシフィカという社会が存在するための必要悪」

 叫んで、バークは首を回して、天井のカメラを睨みました。

が私を殺す気なら」その声は間違いなく私に向けられたものでした。

「私がお前を殺そう。マクファデンの遺志は私が継ぐ。お前の言葉を――力を奪い、お前を海溝の底に沈めてやろう」

「そうならないために」武田がそっとバークの肩に手を置きました。

「僕たちはここに来たんです。あなたを追う原始犯罪課PCDたちは〈アイデンシティ・パシフィカ〉の存在を知らない。〈パシフィカ〉は本当にあなたを死に追いやるでしょう。だから、僕たちは彼らよりも早くあなたを捉え、こうして会話をする機会を作ったんです」

 バークは再び口角を上げました。その不敵な笑みの中から彼が言葉を紡ごうとしたとき、エレベータは再び暗闇の中に飲まれました。レベルBを抜け、展望層(レベルA)へと辿り着いたのです。

 エレベータは間もなく止まり、三人はパシフィカの海面上ドームの天頂部、展望デッキに躍り出ました。

 雲一つない青空とどこまでも先まで広がる大海と。その息苦しいまでに清々しい光景の中、バークは外に出るや否や踵を返して駆け出しました。武田とカハラも追っていきます。

 展望デッキの端に面したレストランの屋上へと繋がる階段をバークは昇りました。その先は行き止まりですが、バークの位置からでは見えませんでした。

 案の定バークは行き止まりで足を止め、退路を武田とカハラが防ぐ形になりました。

「逃げた場所が悪かったですね、バーク。逃げ道はありませんよ」

「行き止まりに逃げ込むとは、〈ユイ〉に頼りっぱなしだった弊害だな」

 けれども、その自嘲的な物言いとは裏腹に、振り返ったバークは不敵な笑みを浮かべていました。懐から黒光りするものを取り出していたのです。

 武田とカハラは一歩後退りしました。

「〈ロスト・ワン〉の標準装備といったところですか」

「ご名答だ、タケダ」しかし、武田は冷静さを失っていませんでした。

「残念ですが、バーク。この展望デッキ全体も全覚文の発話エリアです。銃の使用もまた原始犯罪の子孫――〈ローレライ〉が黙っていません」

「だから何だ」バークは聞く耳を持たず、武田に向かって銃を向けました。

「私にはまだやるべきことがある。お前たちはそこをどくべきだ」

 そのとき、原始犯罪制圧準人〈ローレライ〉が起動アクティベートし、計算資源を優先的に割り当てられ、全覚言語環境(ASLE)における発話順位も一気に繰り上がって一位となりました。

〈ローレライ〉がバークに警告をします。

『エン・バーク。あなたの予測行為は原始犯罪に該当します。直ちにその行為の遂行を中止してください。繰り返します……』

「〈ローレライ〉、その警告は無意味だ」

「バーク、言われるまでもないでしょうが、〈ローレライ〉に撃ち抜かれれば、あなたは一時間は動けなくなる。PCDに掴まることは必至です」

「これが最後の警告だ。そこをどくべきだということが何故分からない?」

 バークの叫びにも、武田は屈しませんでした。

 バークは一つ息を吐くと、引き金にかけた指に力を入れました。

 その瞬間、〈ローレライ〉が唸り、猛烈な波動素ウェイビムがバークの脳を揺さぶりにかけます。第七禁文〈わたしと共に歌いましょう〉。強制的な意識喪失へと誘うかつての有害全覚文です。それはバークの意識を奪い、引き金が引かれることはない――はずでした。

 波動素ウェイビムのゲリラ豪雨の中、バークはまっすぐ立っていました。そして何事もなかったかのように引き金を引きました。

 波動素ウェイビムを吹き飛ばす乾いた音。一瞬遅れて、武田が後ろに吹き飛びました。銃弾に肩を穿たれた彼は地面に転げながら呻きます。

「そんな、タケダさん!」

 カハラは武田の元へ駆け寄ります。肩を押さえて呻きながらも、彼は大丈夫、と答えます。

「どうして、〈ローレライ〉は……?」

「〈不覚者ノーセンス〉、知ってるだろ? マリラ」

「まさか」カハラが目を丸くしました。

「後天的な全覚文失読……!」

「〈スマート・アイ〉も、〈スマート・イヤー〉もすべて摘出した。代わりに、完全オフラインの旧式な人工器官を移植してね。そして、人工感覚器官に適切なフィルタリング機能をセットしてやれば、あらゆる全覚文は私に対して文意を喪失する。〈わたしと共に歌いましょう〉だって、今の私にはただの些細な振動にしか感じない。つまり、私を止めることはできない」

 そう言って、バークは呻く武田の脇を取って道を引き返そうとしました。

 けれども、カハラはバークの前に立ちはだかりました。

「どういうつもりだ」

「私はあなたの主治医です。あなたの感情抑圧反動を必ずや治し、もとのパシフィカンに戻してみせます」

「無理だ。人工的な失読化は一部に不可逆な処置がある。どう足掻いたところで、今までのようにパシフィカンとして生きていくことはできない」

 すると、カハラは悲痛そうに目を細めました。

「どうして? どうしてそんな物言いをするの」

 バークは答えません。

「今のあなたは、私の愛したエン・バークじゃない」

「何を今更。私たちの関係は、私が他性になったときに変わった。以降は最も良き友人として、良きパートナーとして共に生きようと約束して、お前もそれに同意したはずだった。なのに、その後自ら連絡を絶ったのはどっちだ。私を裏切ったのはお前の方だろう、マリラ?」

 どす黒い感情を巻き散らすようにバークは吠えます。

「良きパートナー? 本当に馬鹿なの? そんなものが成立すると、それに私が耐えられると、あなたは本当にそう思っていたの?」

 バークは答えませんでした。

「人間の感情はそうやって割り切れるものじゃない。あなたは、私の気持ちを考えたことがある?」

「共感、か」ぼそりとバークが言いました。

 カハラが眉を上げます。

「反吐が出る」

一瞬の間合いに浮かべたその単語を薙ぎ払うようにバークは吐き捨てました。

「だから私は性を捨てることを選んだんだ。愛だとか、セックスだとか、そんなもの、人工子宮があるこの時代には必要ない。もう、そんなもの、人間には百害あって一利なしだ」

「あなただって人間だった! 一人の男性だった!」

「それはまだ、私が純然たるパシフィカンとして生きていく覚悟を決める前の話だ。確かに、共に過ごした学生時代は――その時私の脳内を駆け抜けた無数の電流の軌跡は、私にとってもかけがえのないものだった。ただ、それは泡沫だ。いつかは弾け飛ぶもの――男女関係が永遠などではないことは無数の先人たちが統計的に証明してくれる通りだ。だから、お前を一番愛していたときに性を捨てることで、私は、私たちの関係を最善の状態で保存しておきたかった。脆いままの不安定な関係に何故固執する必要がある?」

「私にとってはそれが幸せだった!」

 涙腺のとうに決壊していたカハラはバークの前で仁王たちをし、その行く手を阻むように両腕を大きく広げて見せました。

「エン、何もあの時に戻りたいなんて言わない。過去は過去よ。でも、あなたに与えられた選択肢は二つ。私と共に『良きパートナー』として再び生きていくか、私を殺してこの場を去るか」

 カハラが決死の覚悟でそう言ったのは、とめどなく溢れる涙を見れば一目瞭然でしたが、渇いた表情のバークはそっと銃口をカハラの額に向けただけでした。

「警告だ、マリラ。この至近距離。外すことはない」

「やめ……」武田が呻きながらも、右手で地面をついて体を起こしました。

「カハラ……やめろ。行かせるんだ……」

 カハラは一歩も退きませんでした。

「さあ、私を殺せるものなら殺してみなさいよ!」

「ありがとう、そしてさよならだ、マリラ」

 バークは躊躇うことなく引き金を引きました。

 彼女の体躯はあっけなく後ろへと吹き飛びました。地面に横たわって動かない彼女の脇を、バークは平然と抜け、階段を下りていきます。

「バーク……」

 出血量が多かったのでしょう。薄れゆく意識の中、武田はその背中に向かって呼びかけました。

 けれども、バークは振り返ることなく歩み去り、程無くして、武田の世界は深い水底へと沈んでいきました。

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