食べるということ
第30話 藤重と私の生活
藤重と付き合って2か月が経った。
藤重は変わらず優しく、私のことを大切にしてくれたし、いつもまめに連絡をくれた。私は彼のことが大好きだった。
しかし、やはり会える時間は少なかった。
2年生ということで授業が多いこともあったが、所属しているボランティアサークルで藤重は新しいことに挑戦していた。これまで頼まれたことを中心にやっていく団体だったのを、自分たちで何が必要かを考え、計画し、交渉して実践する団体に変えたいそうで、学生側の学びの機会を増やそうとしているんだと藤重は熱く語っていて、忙しそうだった。
だから、放課後もミーティングがあったし、土日もその活動で埋まっていた。私たちが会えるのは、平日の数時間と土日のどちらか夕方に少し会えるくらいだった。
私はというと、芸人になると決めて就活しなかったにも関わらず、その熱意は消えていた。私は藤重と幸せに暮らしていければそれでいいと思っていた。藤重が教師になって、私はそれを支える、そんな人生を想像しながら、朝、モーニングのバイトに行って、週に1回のゼミに出る以外は、空虚な時間を過ごしていた。
そんな生活は藤重に会いたい気持ちを募らせ、次に会える時までの時間を10倍にしたし、会っている時の時間を10分の1にした。藤重に会うと、ふわっと胸の中に暖かく広がるなにかも、10倍になった時間ではすぐに無くなってしまい、私はその空いた場所を埋めるようにコンビニへ向かうようになっていた。少しずつ緩くなっていく輪郭に藤重は気づいているのかいないのか、全くふれてこなかったし、変わらず「好きだよ」と微笑んでくれた。私はその言葉を聞くために生きているようなもので、私の生活は藤重一色だった。
だが藤重は私をかわいい、かわいいと言う一方で、束縛の類は一切しなかった。私が今まで読んできた漫画や小説では、交際している2人の間には「男と話すな」という強引なものから、「男性と2人で飲みに行くのはやめてほしい」というような理解できるものまで、多少なりとも束縛と呼べるものが存在していて、私たちの間にもそれが当たり前のように存在するものだと思っていた。
大学で学部の男の子と2人でしゃべっているときに偶然藤重に遭遇したことがあった。しかし、藤重はいつもと変わらない笑顔で手を振ってきたし、その後も何も聞かなかった。また、私は尾野の件で、幸田のことが心配だったので、食事にでも行って話を聞こうとしたのだが、2人で食事はまずいかと藤重に聞いてみた。すると、藤重は「そんなのめぶの自由だよ。気にせず行っておいで。」と逆に驚きながら微笑んでいた。相手の束縛が原因で別れるカップルは多いというが、私はそれがないことになぜかショックを受けていた。
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