第10話 おはよう

「…おはよう。」

 南がそう言って起き上がる。南はそれまで寝ていても私が少しでも起きるしぐさを見せるとむくっと起き上がる。自分のタイミングで起きればいいのに、何か気を使っているんだろうか。見慣れた朝に伸びをする。


 南がうちに泊まるようになって3週間が経っていた。


 飲みに行った帰りにうちに泊まってから、途中荷物を取りに自宅に帰ったりしているものの南はずるずるとうちに泊まるようになっていた。きっとあの部屋に帰りたくないのだろう。


 私も南がいると、楽しいし、寂しくないので、南が泊まっていくことが当然のような顔をしていた。

「そういえば、私今日、11時から商品開発の集まりあるんだった。」

 私がそういうと、南ははっとした顔をしてスマホを見た。


「やば!うち、9時からだった!」

 私が慌てる南をよそにテレビをつけると、左上に9時18分と表示されていた。

 南は寝間着からその辺に積んである、ぐしゃぐしゃになったTシャツとジーンズに着替えて顔を洗いに行った。


「もう、またシャワーも浴びずに行く気でしょ。」

 私がそう言ったが南には聞こえていないようだ。いつも南は朝バタバタするのだから夜お風呂に入ればいいと思うのだが。私が夜風呂から上がったあと、そう言ってみても本人は面倒くささの方が勝つらしく私の呼びかけにうーん、と言うだけなのだった。


 南が寝ていた場所に視線を戻すと、洗濯したものなのか脱いだものなのか分からない服が布団の横に積み重ねられていた。よく見ると枕の下にあるのはパソコンだ。部屋の一角が南の部屋になりかけている。


「ちょっと掃除しなよ。自分の家じゃないんだからさあ。」

 戻ってきて髪をとかしている南にそう言うと、南はすみません、と謝った。たぶん直す気はないのだろうなと思いながら、夜の約束のことを思い出した。


「あ、そういえば私今日、タンメンに夜ごはんに行こうって言われててさ、行ってくるね。」

 タンメンとは4年のサークルの先輩だ。タンメンはもちろん本名ではなく芸名だ。正直あまり気は進まないので、南も一緒に来る?と聞いてみたが、南は今日はバイトだと言って断った。

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