第39話 夢

「綺麗な髪だね。」


 本当は南が起きだす前に、メイクをして髪をアイロンで伸ばそうと思っていたのに、物音に敏感な南は目を覚ましてしまったらしい。初めて家族以外にまっすぐにする前の髪を見られてしまった。

 動揺する私に、南は寝ぼけ眼でそう言った。

 私は「そんなことないよ!」と怒りながら洗面台に向かって、必死でアイロンで髪を伸ばした。こんな髪が綺麗なわけない。私が好きなのはまっすぐでサラサラの髪で、アイロンが終わると私はショートヘアになっていた。

 ベッドには藤重が横たわっていて横に潜り込むと、「綺麗な髪だね。」と言って私を撫でた。「これは嘘なんだよ。」私が泣きながら言うと、「僕はめぶに会えてよかったよ。」と言った。

 瞬きをすると、そこには曽田がいて、「めぶはめぶのままでいいんやで。」と、その手も私の丸刈りの頭を撫でた。




 いつの間にか眠っていたらしい。変な夢を見た。少し頭痛がしたが、構わず起きた。


 今日は午後から卒業前のオリエンテーションがある。人生最後の「登校日」になりそうだ。時計を見ると、11時を少し回ったところだった。


 時間をかけて、華やかなメイクをしよう。少し遠くのコンビニによって、歩いて行ってみよう。自分の好きな自分でいよう。


 私は自分で決めた通り、自分の好きな自分を作っていった。出かける前に再度鏡の中でくるくる回ってみても、私は完璧だった。チークでほんわりと蒸気させた頬に映える、白いワンピースはやはりお気に入りで、今日はその上に黄色いカーディガンを着ている。今日は寒いので、その上にまた茶色いコートを羽織った。


 家を出ると、やはり寒い。けれどもコートでしのげる範囲だ。地元と違って、雪があまり降らない県に越してきてよかったなと思う。


 父や母はどうしているだろう。大学1年生の時、始めてこっちに越してきた晩は不安で寂しくて泣いていた。家族と暮らした時間よりも、離れて暮らした時間の方が長くなったら寂しくならなくなるのだろうか。小学校や中学校の友達なんて、みんなもう連絡を取らなくなったのに、家族とはそうならない気がするのとはなぜだろう。それを「血のつながり」など目に見えないものとして行ってしまうのは少々雑なのではないか。彼らは私にとってなんなのだろうか。


 そんなことを考えていると、目の前にセブンが見えた。

 店員に「デブのめぶ」とあだ名されていたことを知って以降、随分来ていなかった場所だ。けれども、卒業前に克服しておきたかった。自分のことを好きになるには、ここに来ないといけないと思った。

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