第21話 南との再会

 大学の中にあるカフェに急いで向かうと、窓際の席に南が座っていた。昨日話したはずなのに、その顔を見ると急に緊張してきた。


 私を見た南の第一声は「めぶ、やっぱ痩せたね。」だった。

 カウンターでもらったホットコーヒーを机に置くと、南の前にはアイスココアとチーズフランスが置いてあった。


 南とは学部が一緒だから私も南の姿を時たま見かけることがあったが、南は私の姿を見るたびに痩せたと思っていたらしい。


 痩せた、痩せたと言われるのが照れくさく、

「これでやっと女になれたかな。」

と自嘲して笑うと、南は

「めぶは元からかわいいよ。」と少し怒って言った。


 しかし、今度は南が

「うちは最近太っちゃって、服も適当だし、やばいわ…。」と言ったので、私も「そんなことないよ!」と少し怒って言うといつかの箕輪のコントを思い出した。


 「最近太ってさー」と繰り返すかわいい女子に箕輪が「そんなことないよ」と諭し続けるセリフは、女子と箕輪の切実さが気にかかったが、お客さんには定番のあるあるだと思われ笑いを取っていた。


 ネタ終わりに、舞台裏で楠野に「そんなことないよ」って言ってほしがる女子おるよなあ!分かるわあ、と言われていた箕輪は不服そうだった。


 たしかに、本心からの言葉だった。別に相手に何かを期待しているわけではない。私たちは心から自分はまだまだダメだなと思っているし、相手がそう言っていると、本気でそんなことないと思っていた。


「…昔から意識せずに使っている言葉に、好きなように枠組みを作って分類したものが文法なんです。あまり知られていませんが、文法には必ず矛盾があるし、流動的です。あるあるは文法なんですよ。その枠組みに悪意があったら、言葉は息苦しいんですよ。」

と楠野に言って箕輪は去っていったが、箕輪の言ったことがそのときよりは分かってあげられるかもしれないと思った。


 私がそんなことを考えていると、南がガリっとフランスパンをかじりながら、

「好きな人って誰なんですか?」とニヤニヤ聞いてきた。


「起きてたの!?」

 私はかなり慌てて、危うくコーヒーをこぼしかけた。


 昨夜の私はかなりテンションが上がっていた。しかし朝起きてすぐに冷静な頭で、南に「好きな人がいる」といったことを思い出し、さらにスマホのメッセージの送信履歴を見て、恥ずかしくて死にそうになった。しかし、前者は南も寝ていただろうから、と気を取り直していたのに。再びあの恥ずかしさが襲ってきた。ちなみに後者の方はまだ返信は来ない。


「それで、どんな人なんですか?」南がさらにニヤニヤしながら聞いてくる。

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