第33話 真祖

「お前まで復活していたのか。真祖!」

『あらあら。お盛んなこと。お盛んな殿方は嫌いじゃあなくってよ』

「相変わらずの態度だな。その首、叩ききってやる!」

『素手で斬るもなにもないでしょうに。アハハ。あなたみたいな元気な子、嫌いじゃあないわ。すぐに吸ってあげるからお待ちなさいな』

「そうやって、どれだけの人をヴァンパイアにしやがったんだ! 今度こそ迷い出ないように再び消滅させてやろう」

『あなた……その物言い……まさか、ダイダロス!』

「そうだと言ったら?」

『許さない。許さない! けがらわしい、けがわらわしいい! だいだろすうううううう!』


 両手を振り上げたところで、アウナスが待てと右腕を大きくあげ彼女に向けた。


『まあまて。カリグラ。貴殿がダイダロスだったのか。一度手合わせしたいと思っていたところだったのだ』

『ダイダロスはわらわが直接吸ってやるのよおおお!』


 4魔が二体まで揃い踏みか。

 真祖は引かず、このまま襲い掛かってきそうな様相だ。

 バラバラにかかってくるのなら、いかな4魔と言えども今の俺たちが手こずる相手ではない。

 剣が無かろうが、こちらは二人なのだから。

 

「サーヤ」

「アウナスのことならば、私がよく知っております。かつて対峙した記憶がありますから」

「そいつは心強い。真祖が待てないようだ」

「お任せを!」


 力強くそう言い切ったサーヤは集中状態に入る。

 一方でまだ言い争いを続けていたアウナスと真祖だったが、我慢しきれぬ真祖が飛び出してきた。

 

『仲良くあの世へ、いいえ。先に小娘を吸って、ダイダロスを小娘に吸わせて。あははは。楽しそうだわ!』


 体をねじり右腕を振り上げる真祖。彼女の手に魔力が集中していく。

 ……こいつ、隙だらけだ。

 真祖は前に出るべきではない。おぞましい限りだが、一番の武器はヴァンパイアを無尽蔵に作り出す「吸血」能力である。

 ヴァンパイアは生前の能力に左右されるものの、どのような者であったも一定以上の強さを持つ。

 故にヴァンパイアの大軍となれば脅威なのだ。彼女が後方から指揮者として振舞うのならば、俺単独だと相当な苦戦を強いられるだろう。

 逆に言えば、彼女単独の力はパロキシマスほどじゃあない。パロキシマスも陣地を作ることが本領ではあるが、あれよりは余程御しやすい。

 何故なら、彼女はアンデッドだからだ!

 アンデッドはタフで麻痺や毒などといった状態異常も効果がない。非常に強力な特性を持つが、その分弱点も多い。

 

 アウナスが攻撃態勢に入っていない今が好機!

 両足に力を込め、真っ直ぐ真祖に向け跳躍する。


『考え無しに突っ込んでくるとは勇ましい限り。オーバードライブ・ナインスマジック サクション』

「セブンスマジック 青の障壁」


 進む先にサーヤの放った海のような紺碧の光が壁となり、赤黒い光を打ち消す。

 卑怯だとは思わないぞ。こっちは二人で一人なのだからな。

 

「喰らえ! 格闘技 第五の理 活殺破邪法!」


 右拳がオレンジ色の光に包まれ、深々と真祖の腹に突き刺さる。

 そのまま右拳が彼女の腹を貫く。

 貫かれた腹からオレンジ色の光が稲妻のようになって彼女の全身を駆け抜けた。

 

『た、太陽の! あああアアアア!』


 ドバーンと海に落下する真祖。

 これで倒しきれたとは思わない。アンデッドのタフさは嫌というほど知っているからな。

 それでも、弱点である正の魔力を叩きこんだからしばらくは動いてこないだろう。

 

『面白い! そうでなくてはな!』


 重力に従い落下しはじめた俺に対しアウナスが二メートルほどある鉄の棍棒を振るってくる。

 彼が振るうと共に棍棒から深紅の炎が舞い上がった。

 だが――。

 

「フィフスマジック フェザーエレメント」


 サーヤの魔法が俺にかかり、ふわりと体が浮く。

 落ちてくるタイミングを計って振るわれた棍棒は俺の頬を掠めるに留まった。

 このまま一気に行くぞ!

 体を右に回転するように思いっきりねじり、構える。

 そこへ、サーヤが更なる魔法を放つ。

 

「ファーストマジック ウォーターハンマー」

 

 彼女の力ある言葉に応じ、俺の背後に三メートルほどの水球が顕現、そのまま直進した水球が俺の背中を押す!

 

「格闘技 第十の理 奥義 タイガーブレイク!」


 全身から赤いオーラが噴出し右拳に集まってくる。

 溜めに溜めた右腕をアウナスの肩口に力一杯叩きつけた!

 その瞬間、赤いオーラが爆発しアウナスに炸裂する。

 

『ぐ、ぐうう。や、やるではないか』


 海に落ちるまではいかなかったが、数メートル吹き飛ばされたアウナスは苦し気な声を漏らす。

 少なくとも左肩は破壊するつもりだったが、精々骨を折った程度か。

 アウナスは単独で戦うタイプなのかもしれない。俺の勝手な推測に過ぎないけど、パロキシマスより戦闘能力が高いと思えた。

 だが、奴ほどじゃあない。アウナスの単体戦闘力は4魔で二番目か。

 いや、油断はできないぞ。

 力の差など技の一発で簡単にひっくり返ってしまうのだから。

 

 お、真祖がそろそろ上がってくるか。

 海面の波と波の隙間に別の動きが見える。まあ、あれだけ殺気を放っていれば見えずとも感じとることは容易いのだけど。

 

 バシャーと勢いよく海面から浮上した真祖は氷のように冷徹な顔を歪め、口から牙を出しブツブツと呪詛の言葉を呟いている。

 一方、タイガーブレイクの衝撃から持ち直したアウナスは纏う炎を燃え上がらせ気合を入れている様子だった。

 

『小賢しい! 小賢しい! 妾が吸わずとも、もうよい! 一斉にかかればお前たちなど一たまりもないのだから!』


 左の指先をパチリと鳴らすと、俺たちの立つ浜辺の右手が揺らぐ。

 ッチ! ヴァンパイアでも召喚しやがったか。

 ヴァンパイアどもの相手をしつつとなると、二人一組で戦うことは難しい。

 アウナスと真祖の二人を相手取り、凌ぎつつ粘るしかないか。

 

『むうん。今度は我の番だ。我が炎に焼かれるがよい。灼熱!』


 アウナスの頭上に炎の渦が生まれ出で、炎の嵐となって俺とサーヤに向かってきた。

 

『加勢するわ。オーバードライブ・ナインスマジック デッドリードライブ』


 真祖の呪詛に応じ別方向から赤黒い回転する刃が飛んでくる。


「サーヤは炎を。俺は刃に向かう!」


 第三の存在に構っている余裕はない。


「二つとも私にお任せください! 二連 一の型 ナインス・マジック ソードバリア。二の型 オーバードライブ・ナインスマジック アイスストーム」


 赤の刃に対しては青の刃で、炎の嵐に対しては氷の嵐がぶつかり合い、対消滅した。

 二連続魔法とは恐れ入ったが、その分サーヤの消耗も激しい。肩で息をする彼女の様子から二度目は無理だと判断する。

 ならば、この隙に一体でも仕留めるしかない!

 

『騒々しいものよ。それがしは剣士と立会をしていたというのに』


 浜辺に出来た揺らぎから、声が響く。

 その直後、クルクルクルと回転した鞘に入った大剣が俺の目前の砂に突き刺さったのだった。

 続いて落ちてきたものに思わず顔をしかめる。

 何故なら、それは人の生首だったからだ……。

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