第24話 急転直下
ノイラート領は先日行った西の山脈でレイティン領と接している。
北に行けば王直轄領があり、南もまた小規模ながらも王直轄領となっていた。東は辺境伯が治めるグバード領。
突然何がと思うかもしれない。俺もちょっと謎なことを考え始めてしまったと自分でも思う。
そうだよな。大きいところから視点を移していくべきだった。
世界は大きな大陸……エルブール大陸といくつかの島嶼が存在する。
エルブール大陸にはノイラート領があるロアーヌ王国、ポドールイ王国、ルーブ聖国の三大国家が大国だと学習した記憶だ。。
その他、南部の端に位置する領土の多くを砂漠に囲まれたナジュ・シャー国、島嶼を拠点にするヤウタ連合などの国家がある。
いきなりの地理な話になったのにはもちろん理由があるんだよ。
冒険者ギルドで依頼の確認をしようと、依頼書ボードなるものを眺めていたんだけど、一つたりとも「プラチナプレート以上」の依頼が見当たらなかった。
場所を変えるべきか悩んでいたので、地理を思い出して板ッてわけなのだ。
うーんと唸り声をあげ、ここはクレアに頼ろうと営業スマイルを浮かべていた彼女に向け右手をあげ挨拶をする。
「ようこそ。ヴィクトールさん、サーヤさん」
「プラチナプレート用の依頼が見当たらなかったんです」
「……! すいません! プラチナとなると熟練冒険者さんの印象が強く。ヴィクトールさんたちは冒険者になられたばかりでした!」
「え、ええと……」
困惑する俺に対しクレアはビシッと右手をあげ、少しお待ちをと仕草で示す。
何かのメモらしき羊皮紙を取り出したクレアはメガネがあったらくいくいっとあげて解説しそうな勢いで説明をはじめる。
「冒険者がランク分けされているのはご存知の通りでして、上はオリハルコンで下はストーンになります」
「はい。一応、そこは記憶に残っています」
「アイアンの方が最も多く、次にシルバーの方になります。カッパーの方は初心者冒険者さんが多数いらっしゃいます」
「ふむふむ」
確か、デュラハンの時に出会った中年の冒険者はシルバーだったな。
彼は気高い精神を持つ仕事人って感じだった。冒険者をしていたら、どこかで出会うこともあるだろう。
「大方予想はつくと思いますが、依頼の数が最も多いのはアイアンです。次にシルバーの方とアイアンの方の混成パーティが依頼をこなすシルバークラスの依頼です。街の中の清掃といった危険の伴わない依頼も多数ありますが、こちらは戦闘の心得がないストーンの方……多くは街の人が小銭稼ぎにやっておりますね」
「ええと、つまり、プラチナの人は数が少ないので依頼も少ないと?」
「プラチナプレートの方はノイラートを拠点としている方となりますと、お二人だけです。ロアーヌ王国全体でも30人に満たないのではないでしょうか」
「思った以上に少ないですね……」
俺たちだけだったとは……そらクレアが自慢気に他の冒険者に語るわけだ。
「プラチナの上のミスリルとなりましたら、王国で1パーティだけです。オリハルコンは存在しません」
「オリハルコンの冒険者はいないってことなんですか?」
「いえ、他国も含めて、オリハルコンの冒険者は二人です。と言いましても、日常的に冒険者として生活されておりません。あくまで依頼達成として報酬をお渡しするために登録していただいているだけですね」
「一人は予想がつきました。ミネルヴァですね」
「ミネルヴァさん? あ……大賢者様のお名前ですね! そうです。大賢者様はオリハルコンの冒険者登録をしていただいております」
よかった。本当によかった。
ミネルヴァが突如街中に転移しなくて。
彼女は俺が考えている以上に名が知られているようだな。
ここでサーヤが「ミネルヴァ様は……」なんてことを語り出さないか冷や冷やしたけど、杞憂だった。
これがパンダのことだったら、危なかったかもしれない。
「事情は把握いたしました。プラチナ用の依頼を受けるにはもっと多くの人が集まるところ、えっと、王都とかに行けばよいのでしょうか?」
「依頼は国ごとに一括で管理できておりますので、ロアーヌ王国内の依頼でしたらご紹介できます」
「分かりました」
「プラチナ以上の依頼は張り出しておりません。受付で依頼がないかご確認ください。プラチナとなりますと、災厄クラスのモンスター討伐も舞い込むことがあります。本来はミスリルクラスに依頼したいところですが、ミスリルクラスはとても少なく。ヴィクトールさんとサーヤさんに期待しております! 冒険者ギルドノイラート支部の期待の超新星なのです!」
興奮した様子で両手を握りしめるクレアである。
それはいいのだが、結局のところ依頼はあるのかないのかイマイチピンとこない。
彼女の話から察するに、プラチナクラス以上に分類される依頼はモンスターのレベルが高い。
ダイダロスの時代と違って凶悪なモンスターの数は少なくなっているはずなので、依頼の数が少ないのだと推測できる。
「今は依頼がない、ということでしょうか」
「急ぎではないものが一つあります。クバート辺境伯様直々のご依頼でして」
クレアがゴソゴソと机の下を探り始めた時、奥の扉の向こうからけたたましい音が鳴り響く。
リンリンリンリン――。
「緊急の遠話です! すいません。しばしお待ちを!」
音に対しびくうっと肩を震わせたクレアが蒼白な顔になって奥へと引っ込んで行った。
ううん。
特に急ぎでもない依頼だったら、ミネルヴァとコンタクトを取るのもいいかもしれない。
それにしても、遠話がきたと彼女は言っていたけど遠話の魔道具なんてものもあるんだな。
魔道具なら魔法が使えなくとも利用できる。俺も欲しいかもしれない。遠話の魔道具。
「サーヤ、遠話の魔法って余り利用されていないように思えるのだけど、厳しい制約があったりするのかな?」
興味を惹かれた俺は待っているのも手持ち無沙汰だったので、サーヤにさっそく聞いてみることにした。
彼女は形のよい顎に指先を当て、思案気な顔で言葉を返す。
「遠話の魔法の条件はお互いが遠話の魔法を使いこなせることと、対象の所縁の物を何か所持していることです」
「ミネルヴァからもらった笛がそれにあたるのかな」
「はい。ですので、私からミネルヴァ様に連絡を取ることはできますが、ミネルヴァ様から私には遠話の魔法をかけることができません」
「なるほど。そういう制約なら、ギルドの中とか固定した場所間じゃあないと厳しいか。魔道具が手軽に購入できるのならと思ったけど」
「兄さま、それほどまでに私のことを」
「あ、うん。万が一はぐれた時にと思ってさ」
自分のためだと盛大に勘違いしたサーヤに話を合わせておく。
曖昧な笑みを浮かべた時、バターンと勢いよく奥の扉が開いた。
「た、大変なことが起こってしまいました!」
「ど、どうしたんですか……」
クレアの余りの勢いにちょっと引いてしまったが、何とか聞き返す。
「大変です! 大変なことですよ!」
「で、ですから……」
「パロキシスマスが復活したかもしれないとの報が入ったんです!」
「ほう」
目をすうっと細め、椅子の横に立てかけた剣の束に指先を当てる。
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