第17話 洞窟?
しばらくむぎゅうと押さえつけていたら、ようやく白黒熊が動くのを諦めてくれた。
「サーヤ。俺のリュックに依頼書が入っているから、見てもらえるか?」
「はい」
ゴソゴソとリュックからくるくると巻かれている羊皮紙を取り出したサーヤは、すぐに依頼内容を読み上げはじめる。
「討伐証明は脚の付け根にある宝玉らしいです」
「あったかなあ、そんなの」
地面に落ちた衝撃で岩が散乱しているランドドラゴンの体を見やり、我ながらバラバラにしすぎたなとため息をつく。
脚の付け根だろうと自分が思ったところで中腰になり、ゴソゴソと素手で岩をより分けてみる。
お、おお。
これかな。
確かに透き通った緑色をした玉があった!
大きさは手のひらに乗るほどなので、分かっていて観察していないと発見するのは難しいな、これ。
大岩に擬態したところから近寄ってきた獲物に向けて襲い掛かるのだから、岩がバラバラと崩れたり飛んできたりで視界が悪い。
それに加え、脚が出てくるまで時間もかかるのだから。
今回は出てきたところを流し斬りで仕留めたわけで、脚の付け根なんて見ている余裕がなかった。
「後ろ脚って二本あるよな。もう一個、宝玉があるのかな」
「かもしれません。私も探してみます」
二人並んでもう一方の脚らしきところを探索するが、今度は中々見つからない。
俺たちが汗水流して宝物探しをしているというのに、白黒熊の奴は呑気なものだ。
ひっくり返ってゴロゴロ左右に揺れている。
地面は瓦礫だらけだろうに、痛くはないのだろうか? 面の皮が厚そうだし、そのまま寝ても不思議じゃあない。
やたらとリラックスしている様子だしさ。
「兄さまも、癒されていたのですね」
「あ、いや……うん」
「私もです! 先ほどから可愛すぎて」
俺が白黒熊を横目で見てイライラしているのを勘違いしたサーヤだった。
でも、彼女のほんわかした顔を見ていると真実を告げることができなかったのだ。
彼女の趣味って少し変わっていると思う……。
ありがたいことに俺についてきてくれるってこところで既にかなりの変わり者なことは間違いない。
……これ以上考えることをやめて無心に探すとしようか。
「あ、ありました。こっちは色が違いますね」
「ほんとだ。さっきのと比べて緑が混じった青って感じだな」
「どちらも綺麗ですね!」
「だな」
よっし、これで依頼達成だ。
すぐに街へ戻るか、一日ほど鉱石を探してからにするかどうするかな。
サーヤの様子を見ている限り、慣れない野宿でもまだまだ元気そうに思える。
だけど、彼女の事だから気丈に振舞っているだけな可能性も高い。ダイダロスの記憶がある俺と違って、サーヤは正真正銘、野宿を繰り返す徒歩の旅は初めての体験なのだから。
それも、悪路も悪路だしモンスターが闊歩する危険地帯というおまけつきだ。
「サーヤ。ギルドの依頼は終わったし、戻ろうか?」
「はい。ですが、モフモフさんがまた乗ってくれと構えています」
うん、分かった。乗りたいんだな。
彼女に尻尾があったら、ちぎれそうなほど振っているだろう。
ここまで何かに興味を惹かれる彼女を俺は未だかつて見たことが無い。
ずっと俺の事情に付き合ってもらっているわけで、とっとと街に戻ろうと提案したのも彼女を思ってのことだ。
なので、彼女が帰るよりこいつに乗りたいというのなら是非もない。
「じゃあ、乗るか」
サーヤの背中を押し、彼女にリュックを預ける俺である。
「……兄さまは乗らないのですか?」
「俺はモンスターを警戒しつつ、並走するから」
白黒熊にまたがったサーヤが拗ねた目で俺をじーっと見つめてきたが、俺は乗らん、乗らんぞ。
さっきみたいにランドドラゴンに突っ込んで行ったらどうするんだ。
こいつは向こう見ずに動く暴れ馬みたいなものだからな。
俺が行く手を掃除しなければならぬ。
◇◇◇
サーヤがリュックを前に抱え、覆いかぶさるように白黒熊の首元をしかと掴む。
『むきゃ』
一声可愛くなく鳴いた白黒熊は、やはりというか何というか俺の合図などお構いなしにかけはじめた。
俺の荷物は武器だけだから、いつ出発してもよいのだけど……。
もう少しこう、何か反応をしろよ。
ランドドラゴンがいた広間を抜け、どんどん高いところまで登っていく白黒熊。それを追う俺。
道があろうが無かろうが最短距離を通過する白黒熊のルートは、傾斜のきつい崖のようなところばかりである。稀にこれ壁じゃねえかって思うような絶壁まであった。
お、さすがの白黒熊でもここで立ち止まるか。
それもそのはず、切り立った崖が目の前に広がっているからだ。
角度はほぼ垂直に見える。しかも、高さが100メートル以上もあるので、跳躍で登るのは難しいだろう。
両手を使えばいけるが、残念ながら白黒熊の前足はそれほど器用にできていないように見える。
『もぎゃ』
「こら!」
白黒熊が俺のズボンを口で引っ張ろうとしてきたから素早く回避した。
ついてこいという仕草なのだろうけど、言われずともサーヤが乗っている限りは目を離さないぞ。
首を上に向けすんすん鼻を鳴らした白黒熊はのっしのっしとゆっくり歩き始めた。
すると、崖の中にポッカリと空いた洞窟の入り口らしきものが見えてきたのだ。
洞窟にしては、直線的な入り口だなあ。
高さは2メートル半ほどで横幅は2メートルといったところ。長方形になっていて、ところどころ欠けた跡がある。
この様子からして、人の手で作ったものなんじゃないかと推測できた。
「サーヤ。ここからは歩いた方がいい」
「承知しました」
彼女が俺の意図を察しているかどうかは不明だ。だけど、彼女はあれだけ気に入っていた白黒熊の背から不満を漏らすわけでもなくすっと降りてくれた。
「俺の傍から離れないようにな」
「もちろんです。手、握っていいですか……」
右手を彼女の方へ差し出すと、ぎゅっと彼女が握りしめてくる。
入口の構造から想像するに、中はただの洞窟とは思えない。
ここまで連れてきた白黒熊が出入りしているような場所だったら、罠や地面が突然崩れてくる可能性は低いかも……。だが、用心するにこしたことはないだろ?
俺の心の内なんて気にもしない白黒熊は、のっしのっしと奥へと進んで行く。
こいつが前を歩くのなら壁くらいにはなるだろ。
◇◇◇
中はすぐに光が届かなくなり真っ暗闇になってしまった。
天井の高さは四メートルくらいあって、白黒熊でも悠々と進むことができる。サーヤが奴の上に座っていたら頭をつっかえたかもしれない。
降ろしておいて正解だな、うん。
「ファーストマジック ライト」
サーヤが持つ杖の先端に光が灯り、周囲を照らす。
「ありがとう。サーヤ」
「兄さまなら暗闇でも行動できそうですが、私はちょっと」
「俺だって、明るい方が助かるよ」
サーヤの推測通り、俺は完全な暗闇であっても戦闘可能である。
だけど、視覚情報があった方がないより断然良い。文字だって読めるしさ。
戦闘ができるだけであって、目で物を見ることはかなわないのだから。
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