第13話 冒険者ギルド

 ノイラートは王国の中だと中規模の街に位置する。

 人口十万人を超えるとなるとそれなりの街規模なわけで、街の端から端まで歩くいたとしたら結構な時間がかかってしまう。

 いや、街の外周をランニングするなんてつもりはないけど。

 ともあれ、これだけ大きな街であれば冒険者ギルドは必ずある。

 

 生まれ育った街だけに余り行ったことの無いエリアでもだいたいの予想が付く。

 確か冒険者ギルドは大通りから一本右に入り、左手に折れたところ……だったはず。


「ヴィクトール兄さま、あれではありませんか?」

「お、確かに」


 大きな看板には交差する杖の紋章と「冒険者ギルド」という文字がハッキリと描かれていていた。

 あれで違うとなれば、冒険者ギルドを詐称した建物ってことになるよな。

 入口は両開きの扉になっていて、開かれたままだ。お昼過ぎの時間帯なのか、リッチ騒動があった後なのか人の出入りは殆どなかった。

 

 中はびっしりと依頼書が貼りつけられた板が並び、奥に受付があって、残りはまばらにテーブルと椅子が置かれているといった感じだ。

 思った以上に閑散としているなあというのか俺の第一印象である。

 俺たち以外に冒険者らしき姿はなく、受付の中年男性と若い女子の二人だけしかこの広い建物の中にはいない様子だった。

 受付奥に扉があるから、あの中に他のギルド職員がいそうだけどね。

 

 とことこと受付まで進み、チラリと中年男性の方を見やる。

 彼からめんどくさいオーラが出ていたので、彼をスルーして隣のポニーテールの女の子に声をかけることにした。

 

「すいません。冒険者になりたいのですが」

「依頼ではなくて、ですか? 身なりからてっきりお貴族様か何かかと思いました」

「装備はこの後揃えるつもりでいました。これじゃあダメでしょうか」

「いえ、問題ありません! 冒険者ギルドはどのような方であれ、ウェルカムです! 犯罪者だけはお断りになっておりますが!」

「そうですか。でしたら手続き? をお願いできますか?」

「しばしお待ちを。ご依頼をお受けするしないの判断基準にもなりますので、こちらの用紙に必要事項を記入いただき、銀貨一枚をご用意ください」

「ええと、サーヤの、連れの分もお願いしたいです」

「承知いたしました!」


 近くの席に座り、いただいた羊皮紙と羽ペンを使って必要事項とやらを記入していく。


『名前:ヴィクトール

 種族:人間

 魔法:無

 階位:無

 特技:剣

 その他特記事項:無』

 

 こんなもんかな。

 さくっと書き終えた俺に対し、サーヤは秀麗な眉を寄せ手が止まっている。


「兄さま、どのように記載いたしましょうか」

「あ、そういうことか」


 俺の耳元へ顔を寄せたサーヤが受付嬢には聞こえぬよう囁く。

 俺としては彼女の強さを自慢したいところなんだけど、本来の実力を書いて下手に注目されるとか疑われるのもよろしくない。

 彼女と相談した結果、階位を誤魔化すことにしたんだ。

 

『名前:サーヤ

 種族:人間

 魔法:水

 階位:第五階位

 特技:無

 その他特記事項:無』

 

 MPが急速に増えた結果、彼女の階位はメキメキと成長してさ。

 すごいすごいと彼女を褒めたたえたところ、彼女は「兄さまの修行があったからです」とか殊勝なことを言ってくれたんだ。

 彼女は元々とても器用で魔法を使う技術の習得に長けていた。だけど、そんな彼女もまだまだ成長途上ということもあり、MPが同世代と比べても高いほうじゃなかったのだ。彼女の言葉を借りると、慣れていない高位魔法であってもMPを大量消費して強引に押せば「使うことができる」とのこと。

 

「書きました。どうぞ」

「ありがとうございます。え……」


 書類に目を通したポニーテールの受付嬢は俺とサーヤへ交互に目をやりブンブンと大きく首を振る。

 彼女の中で何か葛藤があり、すうはあすうはあとしつつ「落ち着け私」なんて呟いた後、こちらに顔を向けた。

 

「ま、まずヴィクトールさん、隠さずちゃんと記載してください」

「隠してませんけど……。俺の魔法は属性も無しですし、階位もよくて1です」

「そ、それで冒険者になるにはちょっと……。最も低いランクのストーンプレートならともかく、それだと生活が立ち行かないかと」

「魔法の階位だけで決まるのですか?」

「弓や剣の腕が相当に優れていれば、第三階位扱いとして受け入れ可能です」

「ならそれでお願いします」

「分かりました。ですが悪いこと言いません……他の道を探された方が……」

「何か試験のようなものがあるのですか?」


 「俺は剣の腕がたつ、だから登録しろ」といったところで判断する基準がない。

 となると、どうにかして俺の腕が第三階位に当たるってことを示さねばならないわけだ。

 受付嬢は「第三階位として受付可能」と言っていた。なので、実力を示す何かがあるはず。


「はい。剣や弓でとなりますと、討伐試験を受けていただくことになります」

「分かりました。サーヤの方は何もしなくても登録できるのですよね?」

「はい。ですが、サーヤさん、第五階位とは……」


 ここで話を振られたサーヤが受付嬢に向け、指を一本立て提案を行う。


「受付の方、それでしたら兄さまと私で第五階位、いえ、第六階位に当たる依頼を受けさせていただけませんか? 依頼の達成をもって認めていただければ」

「サーヤ。それはよい案だな。うん」

「兄さまに褒めていただけました!」


 あははとサーヤと笑いあっていたが、受付嬢の肩がピクピク震えている。

 どうしたんだろう。何か問題があるのかな。

 彼女の反応をまっていると、不意に隣で話を聞いていた中年の男がぶっきらぼうに話に割って入ってきた。

 

「依頼を受けさせればいいじゃねえか。そうしたら思い知るだろうさ」

「で、ですが、むやみに危険にさらすわけにはいきません」

「なあ、兄ちゃんら、自信があるんだろ?」

 

 中年男の問いに無言で頷きを返す。

 第六階位用の依頼であれば、特に問題はない。モンスターに慣れるのにちょうどいいだろ。


「だってよ。第六階位以上の依頼……こいつがこなせりゃ、あんたらゴールドプレートだぜ。ひゃはは」

「お願いします。危険を感じたらちゃんと逃げますので」


 ずずいと受付嬢に迫ると、たじろいた彼女はぴゃーっと後ろの扉を開け奥に引っ込んで行ってしまった。

 戻ってきた彼女は、二枚の書類を抱え俺とサーヤに示す。

 

「上の者から許可がでました。ど、どうぞ。どちらでもお好きな方を」

「ありがとう」


 どれどれ。

 何が書いてあるのだろうとサーヤと一緒に書類を覗き込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る