第16話 ルーの実力測定

 受付カウンターに行ってS級ライセンスを提示する。


「あら、S級の方だったんですね」


 受付嬢は驚いたというよりは納得したという顔だった。


「あいつS級だったのか」


「道理でつええわけだ」


「あの一瞬で何をしたのか、全然わからなかったもんな」


 ざわめきが起こるが気にせず用件を告げる。


「パーティーの登録と彼女のS級クエスト申請をお願いしたいんですが」


 さすがに冒険者ライセンスを持ってない相手とパーティーを組むのは認められないだろうからね。


 ルーの強さならS級くらいは余裕だし、俺と組んでいることを考慮されたら冒険者になるための序盤は省略してもいいはずだ。


「S級認定クエストですか……失礼ですがこちらの女性のライセンスの提示をお願いいたします」


 受付の返答は予期していたので、やっぱり通らないとダメな道だったかと思う。


「私はまだ冒険者ライセンスを持ってないのですが、まずいでしょうか?」


「えっ」


 受付嬢ははっきりと困惑する。


 まずいかどうかで言えば確実にまずいので、ギルド側がどういう判断をするかだ。


 大都市の冒険者ギルドなら比較的柔軟な対応をしてくれるだろうと思ったので、こっちで申請したんだが。


「S級認定クエストを受けるためには、まず実力試験が必要になります。S級冒険者の方と組むと言っても例外はないのですが、よろしいですか?」


「当然ですね」


 ルーは即答した。

 まあ例外は作れないよねと俺もうなずく。


「ではまずは実力測定からです。ギルドマスターに報告して来るので少しお待ちくださいね」


 受付嬢はそう言って奥へと引っ込む。


「実力測定……フェニックスを出せばよかったですか?」


 ルーの疑問はもっともで、俺もそうすれば話は早かったかもしれないと少し後悔している。


「まあ試験の時に出せばいいと思うよ」


 フェニックスを召喚できれば実力の証明として充分だろう。

 むしろルーの実力証明手段としては一番温和だと言えるかもしれない。


 他の技、俺が見た限りだと火力過多だったからな。

 少し待っていると中年の女性が出てくる。


「あんたかい? S級ライセンスを盾にして無茶ぶりしてきた奴らってのは?」


 嫌味な言い方とともにじろっとこっちを睨んできた。


「ごめんなさい」


 無茶ぶりにしたのは事実なので謝っておこう。


「ふん、意外と素直じゃないか」


 ギルドマスターは鼻を鳴らすと少しだけ視線をやわらげる。


「とりあえず戦闘力を見てからだね。戦闘力があればいいってもんじゃないけど、ないとはじまらないからね」


 その点はまったく異論ないので、あとはルーが力を見せるだけだ。


「ついてきな」


 ギルドマスターに案内されたのは上の階にある訓練場で、中には何人かの冒険者たちがある。


「ゼフはいるかい」


「いるけど、どうしたんだ、ギルマス?」


 ギルドマスターが声をかけたのは、三十歳くらいの男性だった。

 近くに三人男性がいるのは同じパーティーの仲間だろうか。


「ちょっとこの娘の力を見るから、相手をしてやってくれ」


「新入りか?」


「お、メチャクチャ可愛いじゃん」


 ゼフ以外の男性はルーの美貌に目を奪われたようだった。

 ルーが平然としているのは視線を浴びることになれる立場だっただろうか。


 本人が気にしていないなら、まだでしゃばらなくてもいいな。


「わかりましたが、彼女の力は?」


 ゼフの問いにギルドマスターは鼻を鳴らす。


「それを今からたしかめるんだ。あの娘の力を受け止めてやりな」


「承知しました」


 ゼフは不思議そうにしていたものの、ギルドマスターの話し方からそれ以上事情は聞けないと察したのだろう。


 空間の中央に移動してからルーに視線を向ける。


「やりすぎるなよ?」


「わかっています」


 念のため声をかけると、ルーは落ち着いて返事をした。


「じゃあやってみな!」


 模擬戦闘の審判のような立ち位置でギルドマスターが告げると、ルーはいきなりフェニックスを呼ぶ。


「おいで、ベンちゃん」


 出現したフェニックスは俺たちを乗せた時とは違い、赤く燃え盛る炎をまとっていた。


「はぁ!?」


「なっ!?」


 本気じゃなくてもその存在感、圧迫感はまさにSS級の名にふさわしい。


 冒険者たちもギルドマスターもひと目見て気づいたようで、硬直するか腰を抜かして尻もちをつくかに別れる。


「まさか、SS級のフェニックス!?」


 ギルドマスターはさすがと言うべきか、すぐにベンちゃんの正体に気づいたようだった。

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