第50話 お菓子を探せ!
「どうする? 普通に探すか?」
と俺が聞くとルーはきょとんとしたものの、スーはにやりと笑った。
「何か勝負でもしてみるか?」
彼女は乗り気だった。
好戦的とは言えないにせよ、こういうのは好きなのだろう。
「勝負と言うかゲームと言うか。みんな土地勘がないからはぐれると困るし、三人歩きながら最初に見つけた者の勝ち、でどうだろう?」
漠然と探すよりは楽しいと思うんだ。
「いいな!」
スーがすかさず賛成する。
「はぐれる心配がない点が素敵なアイデアですね」
ルーも乗り気になってくれた。
「子どものお遊び扱いされるかと思ったけど」
ちょっと意外だった。
「なーに。たまには童心になるのもよかろう」
スーはワクワクしている顔で言う。
一番乗り気なのが彼女だとみて間違いなさそうだ。
「そうですね。どうせなら楽しいほうがいいでしょう」
ルーも無邪気な感情が隠しきれていない。
二人とも、こういうのが好きだったんだね……俺だって人のこと言えないけど。
「決まりだね」
と言うと、スーが手のひらと拳を打ち合わせる。
「やるからには勝つぞ」
最も彼女がやる気に燃えているようだった。
「ちょっと待ってください」
勝負は静かにはじまりそうなところで、ルーが待ったをかける。
「どうした?」
止められたスーは不満そうに聞く。
「私とフランさんはダリオルの見た目を知っていますが、スーさんは知らないのではありませんか?」
「あっ……」
スーは間抜けな顔をして間抜けな声を出したけど、俺は彼女を笑う資格がない。
発案者の癖にうっかり見落としていたからだ。
「スーは審判になるのかな」
この流れで見ているだけだとは言いにくい。
「仕方がないな。うっかりしていたわ」
お菓子にすっかり脳が染まっていたスー、それに影響された俺、冷静さを保っていたルーと見事に別れた。
「いいだろう。どちらが勝つか、わたしが見届けてやろう」
何しろ三人横一線で歩くのだから、目を忙しく動かす以外にやることがない。
もしも観客がいるとしたらとても退屈だろう。
当事者たちは俺も含めてみんな真剣なんだけどね。
何軒もの店を通行人を避けながら通り過ぎていくうち、俺はあっと声をあげる。
「あそこ」
そして左斜め前の青い看板の店を指で示す。
ちょうど一人の少女がダリオルを買っているところだった。
「本当ですね」
それをルーが確認して認める。
「つまりフランの勝ちか。あっけない決着だったな」
スーがちょっとがっかりした様子で言った。
「とりあえずさっきのうっかり分は挽回できたね」
ホッとして言うとルーは微笑む。
「フランさん、お見事です」
「さて、敗者のルーはわたしにダリオルを食わせてもいいと思わないか?」
スーはどこか期待している面持ちで提案する。
「そんなルール、作ってなかったけどね」
俺は思わず苦笑した。
ずうずうしいとは言わないが、ちゃっかりしている感じは否めない。
「別にかまわないと思いますよ」
ルーは微笑みながら言った。
「三人分を買いましょうか。保存に関して言えば、スーさんがいれば解決できるでしょうし」
「そうだね。ダリオルは低温で保存しないといたみやすいけど、スーなら平気だろう」
スーの能力なら何日でも余裕で保存できるので俺は賛成する。
「それくらいは任されよう」
スーが納得したので三人で列の最後に並ぶ。
待っているのは五人で、全員が女性だった。
王国でも甘味が好きなのは大半が女性だったけど、皇国でも変わらないのかもしれない。
旦那や兄弟、恋人の分を買う人がいてもおかしくはないけど。
「何と言うか、肌の白い者が多くないか?」
とスーが言う。
「北国だから、日焼けしづらいんじゃないかな」
太陽の下を歩く時間の長さで変わるらしいと聞いた覚えがある。
ルーだって王族で外を歩く時は鎧を着ているせいか、肌はかなり白いしね。
「ふむ。人間の肌は日差しを浴びることで、影響を受けるのか」
スーは興味深そうに言った。
聞こえたらしい前の人が不思議そうな顔をしているが、俺たちは知らぬ顔を決め込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます