第49話 皇都散策

「レンガ造りの建物が多いな」


 とスーはきょろきょろしながら言った。


「ああ。夏は涼しくて冬は寒いからね。集熱、蓄熱効果のあるカリドレンガが使われているんじゃないかな」


 と俺が説明する。


「カリドレンガ?」


 彼女は知らなかったようで首をかしげた。


「ドワーフが魔法鉱石を混ぜて作る、レンガの一種です。これで建てると室内の温度をある程度保てるそうですよ」


 今度はルーがスーに説明する。


「ふうん。人間は牙も爪も鱗もないが、技術と知恵は大したものだな」


 スーは感心したようだったが、一言言いたい。


「ドワーフはドワーフだ。人間じゃないよ」


 どうやら彼女は区別がついていないようだ。

 

「おっと。そうだったか」


 スーは俺を見て首をかしげた。

 何が何だかわからない……と思っていそうな顔である。


 たしかにドワーフは鉱人とか山の民とか言われているけど。


「たしかに人間とドワーフは近縁種の一つとされているらしいですけど」


 とルーが言う。


 まあひとまとめに「人類」なんて呼び方をされる場合、ドワーフとエルフは入るもんね。


「その辺もそのうち学ぶか。そのうちな」


 大して関心があるわけじゃないのか、スーは「そのうち」を強調する。


「今興味あるのは何だい?」


 彼女の気持ちを考慮しようとして聞いてみた。


「むろん、人間が作る甘味だな。パンケーキ以外に何があるのか知りたい」


 とスーは言う。


 どうやらすっかり気に入ったらしく、舌も胃袋も甘味用になったのかもしれない。


「パンケーキ以外か」


 皇国には何があるんだろう?


 寒い国だから氷菓子よりも、温かいチョコレートなんかが人気なんじゃないかと推測しているんだが。


「どうやら冷やした干し果物などもあるようですね」


 ルーが目ざとくデザート店を見つけて言う。


「果物はそんなに食べたいとは思わないな」


 スーは眉を動かす。


「蜂蜜はよかったんだが」


 本当に甘いものが好きなんだね。

 この時期、甘味が強い果物は皇国には出回っていないだろうなぁ。


「蜂蜜を扱ってる店か」

 

 探せばあるかもしれない。


「どうせ他にやることはないんだし、見て回ろうか」


「ええ」


「おう!」


 ルーもスーも賛成した。


 ルーだってちょっと楽しそうなのは、女子は甘いものが好きというルールが当てはまるからだろうか。


 三人で歩いていると、前方から歩いてきた少女が男とぶつかる。


「気をつけろよな」


 男はおだやかに言って立ち去った。

 その少女が右手に持っている紙袋から甘い匂いがしていて、スーが興味を持つ。


「そこの娘、何を持っているのだ?」


 やや高圧的な態度で突然話しかけられた少女はびっくりして立ち止まる。


「これ? ダリオルというお菓子よ。卵と羊乳と砂糖と蜂蜜を使っているの」


 知らないのかと不思議そうにしながらも、彼女は親切に答えてくれた。

 そして俺やルーをちらりと見た後、小走りに去っていく。


「ダリオルという菓子を知っているか?」


 スーの視線は俺たちへと移る。


「うん。こっちでもあるんだね」


 俺が率直な反応をすると、彼女はそっとため息をついた。


「この地のことを学ぶ必要があるのは、どうやらわたしだけではなさそうだな」


「その通りだ」


 悪びれずに認める。

 開き直りに聞こえそうだったけど、スーは怒らずに笑った。


「ちょうどいい。やはり一方的に教わるのは気に入らんからな」


 ドラゴンの性格を考えればありえることだなと思う。

 スーは他のドラゴンと比べれば柔軟で寛容なんだろうけど。


「じゃあ三人で仲よくお勉強ですね」

 

 ルーが手を叩いてうれしそうに言う。

 お勉強とはちょっと違う気もするけど、言うのは野暮だから黙っておこう。


「よし、まずはダリオルという菓子を探そう!」


 スーははりきって言った。

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