第二章
第20話 俺たちの冒険
「では買い物をして、何かお腹に入れてからというのはどうでしょうか? 恥ずかしながらお腹がすいていまして」
ルーは頬を染めながら右手で腹部を撫でる。
「おっとごめん」
考えてみればずっと彼女は山にこもっていたんだな。
食料事情がどうなっていたのか知らないが、しっかり腹に入れたほうがいいかもしれない。
「じゃあ君が気に入った店があれば、そこに入ってみよう」
「ありがとうございます!」
ルーは目を輝かせて喜んだので、俺としては意外な一面を見た思いだ。
食べるの好きなのかなぁ……いやいや久しぶりの外での食事なんだし。
どっちにしろ喜んでもらえたらいい。
「何が食べたい? 好きなものを選んでくれ」
「そうですね……久しぶりなので香草が入ったお粥がいいかなと」
うきうきしているように見えて、ルーの希望はかなり冷静だった。
これもまた彼女の持ち味なのだろうなと思う。
俺たちはまだ知り合ったばかりで、これからお互いのことを知っていくのだ。
「じゃああの店なんてどうだ?」
俺が指さしたのは黒い屋根の小さな古風な建物で、メニューに香草や薬草を中心としたものを扱っていると書かれている。
「いいですね。香草薬草を扱うお店なら、今の私でも大丈夫そうです」
ルーはうれしそうに微笑みながら賛成した。
中にはいるとちょうどあまり混んでいない時間帯だったらしく、すぐに俺たちは女性店員に席まで案内される。
ほどなくして彼女が持ってきたメニューを二人でながめた。
薬草の粥やスープ、香草を使った魚、パスタなどが書かれている。
「私は薬草のお粥とスープにします」
ルーはすばやく決めた。
元々今食べられそうなものが多くないからかもしれないが、それでもなかなかの決断力だと思う。
「俺は魚の香草焼きとスープ、野菜サラダ、デザートの干し果物にしよう」
考えてみれば俺も今日は大して食べていなかったからいろいろと食べたい。
足りなかったらおかわりをしようとひとまず注文を済ませておこう。
「こういうお店、入ったの初めてです」
ルーは店内をきょろきょろと見回しながらはにかむ。
初めてお菓子を食べた子どものような表情に近い。
ずっと抑圧されてきたんだろうなと思うと胸がいたむ。
「これから好きな時に来れるさ。一緒に来よう」
一人で自由に来るのもいいのだろうが、仲間としては一緒に過ごしたいという気持ちがあったのでそう言った。
「そうですね。フランさんはいろいろなお店をご存じなのでしょうか?」
問いかけてくるルーの瞳には期待とあこがれがこもっているように感じたので、訂正しておこう。
「俺は平民だし、田舎出身だったから大して知らないよ。高位冒険者ならいい店を知ってるんだろうけどね」
見栄を張っても意味がないうえにすぐばれるに決まっているんだから、正直に話したほうがいい。
「じゃあ二人一緒にいろいろなお店に回れば解決ですね?」
ルーはにこりとする。
「そうだな。二人で一緒に開拓していこう」
仲間同士の共同作業という雰囲気が彼女も気に入ったのだろう。
彼女は上機嫌に見える。
俺だって彼女と一緒にいろんな店を回れたらいいよなと思う。
声に出すのは照れくさいので自重する。
「俺たちの冒険は今からはじまるんだ」
かわりに言ったのはこの言葉だ。
「そうですね」
ルーは微笑んで両手を胸の前で重ね合わせる。
「冒険がはじまると思うだけでワクワクしますよね」
彼女はうっとりとした顔でつぶやいた。
どことなく色っぽくてドキドキしたし、店内にいる男性客は見とれてしまっている。
中には一緒にいる女性に頬をつねられて苦痛を味わう人もいた。
美少女のこの表情は破壊力抜群だし、視線が吸い寄せられてしまうのも無理はないと思う。
同じ男として気持ちは理解できるぞ。
女性の目が怖いので声には出さないが。
ルーは周囲の反応にまったく気がついていないようだった。
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