第19話 すごいパーティーが出て来た

 ウィムラックの街に帰還して、冒険者ギルドに戻ると怪訝そうな表情を向けられてしまう。


「あら、凍焔のお二人じゃないですか。何か忘れものでもあったのですか?」

 

 受付嬢に聞かれて、俺たちはあまりにも早すぎたんだなと自覚する。


「いえ、もう持って帰ってきたんです。たしかめてください」


 ルーはそう言ってメタルタートルの鱗甲を数枚カウンターテーブルの上に並べた。


「ええっ!? S級認定クエストがもう終わったのですか!?」


 受付嬢が目を見開いて大声で叫んだせいで注目が一気に集まる。


「S級認定クエスト?」


「そう言えばあの二人ちょっと前に出て行かなかったか?」


「こんな短期間で戻ってくるなんて、失敗したのかよ」


 俺たちの姿を目撃したことがあったらしい層は何か誤解をしているようだ。


「普通はこんな簡単に終わらないから、S級認定クエストって言うんですよ」


 受付嬢が申し訳なさそうな顔をしながらも、周囲の反応について説明する。


「S級認定クエストがもう終わったの?」


「あの二人、日帰りで終わらせちゃったらしいよ」


「うそでしょ」


「信じられない」


 ギルド内にいた冒険者たちが驚きのあまりうわさを広めていく。

 ルーは少し居心地が悪そうな顔をして、ちらっと俺を見てくる。


「フランさんは落ち着いていらっしゃいますね」


「まあパーティーの名前があがる瞬間って、わりとこんなものだと知っているからね」


 俺は小声で答えた。


 今までいくつものパーティーが名をあげていくところを見て来た側に過ぎないが、少なくとも未知じゃないのは事実である。


「凍焔っていうのか? すごいパーティーが出て来たな!」


 誰かがそう言った。

 まだ気が早いよと内心苦笑する。


 そう言われるようなパーティーになりたいと思ってはいるんだけどね。


「ルー様がS級冒険者として認められたので、凍焔はS級パーティーとして正式に認定されました」

 

 ルーにS級ライセンスを渡しながらの受付嬢の説明に俺たちはうなずく。

 S級が一人しかいないパーティーをS級パーティーとは言わないからだ。


「本日、依頼を受けられますか?」


 受付嬢の問いに俺は首を横に振った。


 金貨320枚がまだあるので、今すぐ仕事をしないと生活に困るということもない。


「わかりました。またのご利用をお待ちしております」


 受付嬢はにこやかに言うが、冒険者になってから初めて言われたなと思う。


 ある程度実力が認められるまで、冒険者はギルドに仕事をもらっているという立場だ。


 S級にもなればそれが逆転し、冒険者がギルドを利用していると見なされる。


 冒険者の立場の弱さを示しているとも言えるけど、同時に実力次第で変えられるという見方もできた。


「宿を探そうか」


 俺の言葉にルーはうなずき、一緒に外に出る。

 近くに誰もいないことを確認してから俺は口を開く。


「正式にS級パーティーとして認められたんだから、このままもっと移動してもいいんだよな。ルーはどうする?」


 王国から少しでも早く離れたいなら、今日ここで一泊せずに一気に東にでも行ってしまうという手がある。


 フェニックスのベンちゃんならまだまだ長距離飛べるだろう。

 体力も並みのモンスターとは比較にならないからだ。


「言われてみれば、そのほうがいいのかもしれませんね」


 ルーは気づかなかったという顔になる。

 

「ただ、今日出発しても明日出発してもさほど変わらないようにも思います。ベンちゃんの場合は」


 彼女の言いたいこともわからなくはない。

 元々ウィムラックの街だって王都からそれなりに距離がある。

 

 楽観的だと批判するのはちょっと厳しいだろう。

 どうしようか迷っていると、ルーが口を開く。


「別の国にすぐ行っても、S級は歓迎されるのですか?」


 ある程度実績を積んでからのほうがいいんじゃないか、と彼女は言いたいらしい。


「他国のS級の知名度が高くないというのは、割とあるからね。ルーは何人わかる? 他国のS級」


 俺に聞かれて彼女は考え込む。


「【風神】と【雷王】くらいですね」


 もちろん他国のS級がたった二人しかいないはずもない。


「そんなものだろう? どこでも変わらないと思うよ」


 だから他国に行けばS級としての知名度や実績は気にしなくてもいいのだと話す。

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