第18話 ルーメ川のメタルタートル
フェニックスのベンちゃんのおかげで、やはりルーメ川までひとっ飛びだった。
ルーメ川は川幅が思っていたよりも広く、向こう岸が遠くに見える。
「深さによっては泳ぐのもアリかもしれませんが」
ルーはそう言うが、そんな面倒なことはしなくてもいい。
「凍れ」
俺はスキルで氷の橋を作って向こう岸まで渡れるようにする。
メタルタートルがどこにいるかわからない状況で川の水を凍らせるのはまずい。
メタルタートルは川の中で過ごすこともできるので、うっかり凍死させてしまうリスクがあるからだ。
「さすが……川の水はまだ凍らせないほうがいいですね」
俺の狙いを察したらしくルーが感心する。
物分かりがいい子で俺としても助かるところだ。
俺たちは氷の橋を渡りながら周囲を見回して、メタルタートルを探す。
「この冷気で刺激を受けて顔を見せるかと思いましたが、そんなことはなさそうですね」
「近くにいないのかもな」
残念そうなルーにそう返す。
メタルタートルは冷気に強くもなく弱くもなくというところだろうか。
近くにいないなら慌てて顔を出すということもなさそうだ。
探すのもまたS級認定の条件だろう。
「何かいい手はあるか、ルー?」
一人で何でもやってしまうのはよくない。
そもそもこれはルーがS級に認定されるためのクエストなんだから。
俺の手助けは予想しているはずだが、やりすぎはよくないに違いない。
「私は火特化なので……私が温度をあげ、フランさんが無関係のエリアに影響が出ないよう守ってくださるというアイデアを出せるくらいですね」
火の精霊が活性化して暴れるくらいの影響をここでやったら、川の水が蒸発する程度ではすまない気がする。
ただまあ俺が守って影響を抑え込むというのは一つの手か。
メタルタートルのようなタフなモンスターにしてみれば、高温と冷気の二種類で攻められるといった効果があるかもしれない。
ルーが熱を放って温度をあげ、俺が川や近くの草原が燃えないように冷気で包む。
「メタルタートルがいるとしたら南のほうかな」
俺はそう告げる。
「海よりに住んでいる場合が多いのでしたか?」
ルーも知識は持っているようでそう聞いてきた。
「ああ。ルーメ川は南が海だからね」
なんて言いながら南へ向かって歩いていると、やがて川の水をかき分けて地面を揺らしながら巨体が出現する。
俺たちの目的のメタルタートルで、全長は二十メトくらい、高さは三メトくらいだろうか。
うっすらと皮膚が赤くなっているのは興奮状態になっている証だ。
「メタルタートルの攻撃手段は体当たりと水ブレスだ」
「どちらも問題なさそうですが」
俺の言葉にルーはもっともな反応を示す。
「殺さないように一人でできる?」
殺していいならルーは瞬殺してしまうだろう。
問題なのはやはりメタルタートルを殺さず、必要以上に傷つけないという繊細な作業だ。
「善処します」
彼女はそう言って火の剣を作り出す。
一応近距離戦闘などにも対応はできるようだ。
メタルタートルはこっちを睨みながら大きく口を開け、水ブレスを吐いてくる。
ルーはそれを火の剣で受け止め、蒸発させてしまう。
それを見たメタルタートルは力の差に気づいたらしく、興奮状態は冷めて少し後ずさりをする。
この展開は正直予想外だと思いながら見守っていると、ルーは軽く地面を蹴ってメタルタートルの背中に飛び乗った。
「失敬」
そう言って火の剣でメタルタートルの鱗甲をガリガリとはぎとる。
メタルタートルの鱗甲には痛覚がないらしいという情報は本当らしく、巨大な亀モンスターは困惑しているだけだった。
痛みがあれば悶絶したり、ルーを振り落とそうとしたりするはずだもんな。
何もしないのはおそらくルーと力の差を知ったからだと思うが……。
ルーはやがてひらりと俺の近くに着地を決めると笑顔で報告する。
「お待たせしました、フランさん。目標は達成しました」
メタルタートルには少し可哀想だが、これで俺たちの仕事は終わりだ。
「よし、帰ろうか」
即日で帰還するのも能力証明につながるので、早期の帰還を提案する。
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