第21話 皇国入り
腹ごしらえをすませた俺たちはフェニックスのベンちゃんに乗って、一気に北へと飛んで国境へと到着する。
「北はやはりちょっと肌寒いのでしょうか」
着地したところでルーが言うのは、彼女は自分のスキルのおかげで寒さとは無縁だからだろう。
「この時期はまだそうでもないよ。秋を過ぎたら寒くなってくるんだろうが」
俺は彼女に答え、それから確認する。
「皇国でよかったのか?」
ルーは小さくうなずいた。
「皇国を選んだのは皇国と王国の仲があまりよくないことと、連邦の内部がわかりづらいからです」
そして説明する。
「何でも盟主国と友邦国で構成されているらしいとは聞いたことあるけど」
アイルやゾエからの知識だ。
思い出したいかというと少し複雑なのだが、ルーの話についていくためだから活用をためらわない。
制度が似ている皇国のほうがなじみやすくていいんじゃないかと、ルーは判断したのだろう。
王国とは仲が悪いと言っても民間人レベルでの交流はあるからな。
「王国がいやで逃げて来たとなれば受け入れてもらいやすいんじゃないかという計算もあるか?」
俺の言葉にルーはまたうなずいた。
「私の正体が発覚しても、おそらく皇国なら王国に知らせたりはしないと思うんです。政治的に利用されてしまうリスクはありますが」
まあ王国が疎んで追い出した王女が、こんなに強いスキルを持っていると知ったら利用することを考えるのは当然だな。
何も皇国上層部にかぎった話じゃないだろう。
だからこそ彼女の素性がばれないように気をつけたいものだ。
国境を道なりに歩いていくと皇国の国境砦が見えてくる。
ここで彼らは国境で異変が起こらないかを監視し、有事の際には軍を出撃させるのだ。
皇国兵は王国兵と比べて強いという話は聞いたことがあるものの、実際のところどうなのか知らない。
「とまれ!」
当たり前だが砦の近くまで行けば武装した兵士たちに呼び止められる。
「何者だ?」
「S級冒険者です。皇国で仕事をしたくてやってきました」
そう言って俺とルーはそれぞれS級ライセンスを提示してみせた。
「S級ライセンス……いいだろう。通れ!」
兵士たちは驚きながらも許可を出してくれる。
よほどのことがないかぎりS級ライセンスは大きな効果を発揮するのだ。
ていねいな態度にならなかったのはこの際気にしない。
皇国兵にだってプライドはあるのだろうから。
砦の中をあまり見回すと不審がられるかもしれないので、視線を下に落とした状態で通過する。
ちらりと横目で見ればルーはちらちら左右に視線を走らせていた。
わかってはいるけど好奇心は抑えられないらしい。
俺としては咎める気になれなかったが、兵士たちも多少のことは大目に見てくれたようだった。
ゆっくり歩いて砦を通過して皇国の土地に足を踏み込むとほっと息を吐き出す。
「ここまで来ましたね」
「ええ」
俺たちは声を出して確認し合う。
意味がなさそうなことに見えるが、お互いに「王国から離脱できた」という感慨を言葉に出したかったのだ。
「土地勘はありますか?」
質問に首を横に振る。
「王国から出たことがないんだよ。ルーは?」
「私もまったくです。ふふ、知らない土地に来るってこういうことなんですね」
ルーは笑いながらワクワクした視線を空へと向けた。
この子、思っていたけどかなり冒険者適性が高そうな性格をしているな。
「ああ、俺も少しワクワクしているよ」
晴れ渡った空を見上げて言った。
気のせいでなければこちらのほうが少し空気が澄んでいる。
「せっかくだし、近くの町まで歩いて行きませんか?」
ルーの提案は悪くないと言いたいが、一つ問題があった。
「国境砦から最寄りの町は歩いてだと三日じゃすまないくらい離れているはずだよ」
辺境の村ならわからないが。
「そうなんですね」
ルーは少し残念そうだったが諦めたらしく、ベンちゃんを呼び出す。
「ではベンちゃんでひとっ飛びですね」
「うん、そのほうがいいと思う」
今が朝ならともかく、だいぶ太陽は西に移動しているからね。
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