第22話 ウーラの街

 すっかり便利な乗り物と化しているフェニックスのベンちゃんで大きな街の近くまでやってきた。


「今度こそ宿を探そう」


「ですね」


 俺の提案にルーは苦笑とともに応じる。

 予定がコロコロ変わってるなぁという思いは共通のようだ。


 王国から脱出することを優先した結果だから仕方ないんだが。


「買いものは明日のほうがいいでしょうか」


 街に向かって歩きながらルーが小さく疑問を口にする。


「これから行ったとしてもあるのは基本売れ残りだけだろうからね」


 店が開いた直後が最も品物が多く、閉まる直前が一番品物は少ない。

 多くの店の共通していることだった。


「明日の楽しみにしておきます。……宿は大丈夫でしょうか?」


「何とも言えないな。こっちの街のことは知らないから」


 ルーの心配はもっともだと思う。


 宿屋だって夕暮れにはいい施設はいっぱいになっているが多いのだが、街ごとで需要の差はあるものだから。


「最悪馬小屋か、軒下で寝るかになるだろうな」


 実のところ駆け出しの時にどちらでも経験している。

 

「それもまた冒険者らしいですね!」


 ルーはいやな顔をするどころか、目を輝かせる始末だった。

 お姫様とは思えない性格だが、パーティーを組んでいる身としてはありがたい。


 俺たちが着いたのは「ウーラの街」というところで、兵士たちに冒険者ライセンスを提示する。


「S級が二人も……」


 S級ライセンスに威力があるのは皇国でも同じだった。


「何か仕事でも?」


 不思議そうに聞かれたので正直に答える。


「王国に嫌気がさして拠点を移したくて、こっちに来たんです」


 王国出身だと隠していて後からばれたら、変な勘繰りをされるかもしれない。

 商人と同じくらいスパイ疑惑を持たれやすい職業でもあるのだ。


「なるほど。たしかに王国風の言葉だな」

 

 俺ももちろんだけど、ルーの王国風の話し方を隠すのは不可能だろう。

 なら最初から明かしてしまえばいいという判断だ。


「皇国はいいところだと歓迎するよ。S級のお二人さん」


 王国との仲はよくないと言っても険悪にはなってないからか、笑顔で受け入れてもらえた。


 まあ本当にやばい情勢だったら皇国に行くっていう道は選ばなかったしね。

 

 視界に入ってくる限り皇国の建物は石造りが多いようだ。

 

「まずは宿を探そうか。冒険者ギルドは明日でもいいだろう」


 SS級ならともかく、S級なら到着報告義務なんてないからね。


「わかりました」


 ルーも賛成してくれる。

 さて、俺たちが泊まれる宿はまだ残っているだろうか。


 何軒か当たってみたが、安そうな宿はどこもいっぱいだった。


「変だな……何でいっぱいなんだ?」


 夕方になってはいるけど、まだ太陽は出ている。


 これからギリギリのタイミングで旅人や商人が駆けこんでくるのは、大いにあり得る話だ。


 ルーとの相部屋すらできないほど盛況となると、何らかの理由があるんじゃないかと考えたくなる。


「どうしましょうか? 私は野宿でも平気なのですが」


 ルーは遠慮がちに申し出た。

 そりゃずっとベスビオ山で生活していたんだからそうだろう。


「高めの宿に行ってみよう」


 女の子に野宿はいけないって言うのは冒険者相手だと、場合によっては女性差別になるから要注意だ。


「え、いいのですか?」

 

 ルーはなぜか遠慮している。


「金貨も持ってるんだから普通に泊まれるよ」


 いくら高い宿と言っても一人当たり一泊で金貨一枚もしないからね。


「それに俺たちはある程度金を使ったほうがいいんだよ」


 貯め込まずに経済を回せというのは、昔お世話になった先輩冒険者の受け売りだけど。


「そういうものなのでしょうか」


 ルーはピンとこないらしい。


「S級冒険者なのに羽振りが悪いって思われると、多少よくない影響が出るだろうしね」


 大金を稼いで使ってこそのS級以上、みたいなイメージはひそかにある。

 ルーは女子だからないのか、それとも王女様だからなのか。


「そうなのですね」


 とりあえずルーは納得してくれたみたいなので、移動する。

 高い宿の見分け方は意外と単純で、出ている看板に金や銀を使っているのだ。


 

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