第23話 言い訳じゃないし負け惜しみでもない

 高い宿はちゃんと一人部屋が二つあいていたので、二人に別れて一泊した。


 翌朝、目を覚ますと体が軽かったので、寝具は重要なのかもしれないなと思いながら背伸びをする。


 同時にあくびをしたところで、部屋のドアがノックされた。


「おはようございます、フランさん。起きていらっしゃいますか?」


「ああ、起きてるよ」


 わざわざはルーは起こしに来てくれたのか。

 ドアを開けたルーはきちんと着替えていたが、俺は引っかかる。


 女性の服について言及していいのかどうか迷ったけどやめておこう。

 デリカシーがないと何度も怒られた経験があるせいだ。


 宿に食事はついていないので自分で食べに行かなければならない。

 外に出たところでルーに話しかける。


「ご飯を食べたら今日こそ買い物だね。ずっと行く行く言ってるが」


「そうですね」


 俺たちは笑いあった。


 行き当たりばったりで計画性低い。


「まあ計画性も大事だけど、臨機応変に対処するのも大事だからね」


 と言ったけどこれは言い訳じゃないし、負け惜しみでもない。

 ちらりと宿の周囲を見ると何軒か飲食店は営業をはじめている。


「食事がついていない宿の付近には飲食店があるものなのですね」


 ルーは興味深そうに言った。

 

「この宿の客狙いの店なんだろうね」


 そこは持ちつつ持たれつってやつなんだろうかと思う。

 商売人のルールやつき合い方に詳しいわけじゃないけど。


「ルーの食べたいものはあるか?」


「あと数回はお粥になりそうです」


 問いかけるとルーは恥じらいながら微笑む。

 一食だけじゃ胃腸は整わなかったか。


「じゃあお粥を食べられる店を探そうか」


「ごめんなさい」


「気にすんなよ。仲間同士じゃないか」


 相手の状況を理解して許容する。

 憧れていた本物の仲間らしいことだと思う。


 意識的にやっているようじゃ俺もまだまだってことだろうけど。


「ありがとうございます。仲間っていいですね」


 ルーは右手で髪をかきあげてうれしそうに笑う。

 俺たちの仲間人生ははじまったばかりだが、今くらいでも心地いい。


 肩を並べて何軒か歩いていくと、お粥とパンを朝食として選べる店を見つけて入る。


 二人でご飯を食べ終えると、けたたましい鐘の音が聞こえてきた。


「これは警報音か?」


 王国だとモンスターが襲来した時に鳴らされたが、こっちでも同じなんだろうか。


 ルーと二人で顔を見合わせていると、顔色を変えた女性店員がやってくる。


「お客さんたち、旅の人? この鐘の音は第二次警報って言って、やばいモンスターがやってきた時に鳴るんです。早く避難したほうがいいですよ」


 そして早口でまくしたてられた。


「そうなのか。じゃあモンスター退治に行こうか、ルー」


「ええ」


 声をかけるとルーは微笑んで立ち上がる。


「お客さんたち、冒険者なんですか?」


 俺たちがまったく動じてないことから感づいたのだろう。

 女性店員はハッとした顔になる。


「ええ。S級なんで戦力になりますよ」


 俺に続いてルーも冒険者ライセンスを提示したら、女性の顔が輝いた。


「S級が二人も!? 戦ってくださるんですか!?」


「ええ。どこに行けばいいですか?」


 モンスターを迎撃するポイントは街によって違う場合が多い。


「えっとお店を出て左に曲がって、まっすぐ行けば街の警備兵が集まっていると思うので、そこで冒険者ライセンスをもう一度提示していただければ!」


「わかりました」


 女性に料理の代金を渡して店を出て、教えてもらった方角に全力で走る。

 食べた直後の全力疾走はかなりきついがやむを得ない。

 

 ルーは言うと平然とした顔をしているので、やっぱりこの子はタフだなと感心する。


 前方に鎧を着て武器を持った兵士たちの集団が見えてきたので、あれだなと見当をつけた。


 どうやって声をかけようかと思っていると、男性の一人がこっちに気づく。


「旅人は避難したほうがいいが……もしかして冒険者か?」


「そうですよ」


 加勢に来たのだということを示すために、冒険者ライセンスを見せた。


「S級冒険者が二人も!?」


 彼らはやはり大いに驚く。


「ありがたい。これも天の配剤だな」


 中には感動している人までいた。

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