第5話 【青い翼】──兆し
「クソ、どうして私がこんな思いをしなきゃいけないんだ」
リリが大きな荷物を抱えてうなると、アイルが冷ややかに言う。
「フランが抜けたんだ。君以外荷物持ちができるメンバーがいないんだよ」
フランが見れば確実に驚いたくらい彼は別人のようになっていた。
アイルの言葉は間違っていない。
主力で攻撃も守りも一手に引き受けている彼が荷物を持って動けなくなるのは悪手だし、ゾエとミレは荷物を持つ筋力が足りない。
結果、リリが引き受けるしかなかった。
「リリさんが毎度毎度臨時メンバーを追い出すせいでしょう。リリさんに頑張っていただくのが自然かと」
と言ったゾエもまた彼女に対して冷たい。
「べ、別に追い出してるわけじゃ……気に入らないことを気に入らないと言っただけじゃないか」
リリは少し怯む。
彼女は好き嫌いがはっきりしていて、遠慮なく物を言う性格だ。
そのせいで臨時メンバーとすぐに揉めてしまう。
「何でトラブルばかり起こるんだ? 前はもっとやりやすかったはずなのに」
小声で疑問と不満を漏らしたリリに、アイルがぼそっと言った。
「そりゃフランが我慢してくれて、緩衝材になってくれたからだよ」
彼は友人が我慢強く、パーティーの輪を重んじてくれていたことを知っていた。
フランがいたからこそ我の強いリリ、毒舌なミレと一緒でもパーティーの空気が悪化せずにすんでいたのである。
(まさか気づいてすらいないとはね)
アイルはリリのことを買いかぶりすぎていたと気づいた。
彼には二つの誤算があった。
一つ目はリリとミレがフランの重要性をいまだに気づかない愚かな人物だったこと。
もう一つは傷ついたフランの行方がわからなくなってしまったことだ。
(二つ目に関しては僕も同罪で、言いわけの余地がない。謝っても許されないと思うけど、謝罪だけはしなければ……)
もっともアイルは少し弱気になってもいる。
フランに謝るのは罪を償うという意識だけではなく、自分が楽になりたいだけではないか、という疑問がちらつくからだ。
彼自身、フランを想像以上に傷つけてしまった自身の愚かさに対するいら立ちと友人への罪悪感もあり、今までのように仲間たちをいたわることができなくなっている。
(フランさんがいなくなったことで、みんなここまで余裕がなくなるとは)
ゾエもまた自分の愚かさに苦しむ一人だった。
アイルに相談されて賛成したものの、結果がこのザマである。
最初はフランが十日ほどいなくなり、リリとミレが彼の重要性に気づいて反省し、みんなで彼に謝って許してもらうという計画だったのだ。
(フランさんは優しく思慮深く、アイルさんとは物心ついた頃からの友人でしたから、リリさんとミレさんが深く反省して過ちを認めれば上手くいくと思っていたのですが……)
リリとミレもそうだが、自分もまたどれだけ愚かだったのだろう。
ゾエはそう嘆きため息をつく。
過ちに気づいていない者が二人、そして過ちに気づいているがゆえに何もできない者が二人。
チームワークと慎重さが売りの【青い翼】は、真の核となる人物がいなくなった影響で崩壊寸前だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます