第4話 ブラッディベアかと思ったらもっと強い亜種だった

「とりあえず今は何年?」


「精霊歴七七一年、火精の月ですよ」


 ロイの答えに三年以上経過していたことを知る。

 ずっとトレーニングを続けていたせいで感覚が麻痺してたんだな、やっぱり。


「そうか。三年くらいだからそこまで変わってなさそうだな」


 劇的に変わるほどの出来事があれば、さすがに森林にこもっていても伝わっただろう。


「町に着いたらまずはギルドに行って、それから公衆浴場と理髪店に行きましょう

。冒険者ギルド以外にモンスターの討伐証明部位を持ち込むわけにはいきませんからね」


 ロイの言葉はもっともだった。


 本当なら冒険者ギルドですら嫌がられるかもしれないな……一応定期的に川で水浴びをしていたんだけど。


 ギルドに着くまでの道中、じろじろ見られたが気にしない。

 ロイたちが中に入るとにこやかにギルドの受付嬢が出迎える。


「おかえりなさいませ、【勇気の杖】のみなさま。無事に討伐できましたか?」


「いや、失敗しましたよ。この人に助けられたので」


 ロイがそう言うとパーティー全員が一斉に俺を見た。


 俺はブラッディベアの頭部を抱えたまま前に出ると、受付嬢の顔が一瞬だけ引きつる。


 むしろ一瞬だけで平常の笑顔に戻ったプロ意識凄いなと感心した。


「そちらの方が、ですか?」


 俺はロイに頭部を渡す。


 自覚していなかったならともかく、自覚した現状で女性に近づくのはあまり好ましくないだろう。


「査定をしますね……これ、想定されていたブラッディベアとは違いますね。少々お待ちください」


 受付嬢は顔色を変えて引っ込む。


「ブラッディベアじゃなかったんだ。道理で強いわけね」


「フランさんが来てくれなかったら危なかったものな」


 【勇気の杖】のパーティーメンバーからは納得の声があがっている。

 しばらく待っていると、壮年の男性と一緒に受付嬢が出て来た。


「待たせたな。鑑定した結果こいつはブラッディベアの亜種、【デーモンベア】だと判明した。強さ的にはAA級相当になる」


 壮年の男性がそう言ってから俺をじっと見た。


「AA級だって?」


「むしろ生きて戻ってこれた私たちは相当運がよかったのね」


 【勇気の杖】のパーティーが驚愕する。

 AA級か、道理で彼らが苦戦していたわけだと俺も納得した。


「【勇気の杖】を助けたってのはその男か?」


「そうです、ギルドマスター。このフランさんが一人で【デーモンベア】を倒したんです」


 ロイがギルドマスターに応える。


「【デーモンベア】を一人で倒せるならS級相当の実力があることになるわけだが」


 うさん臭そうな目で見られているのは気のせいじゃなさそうだ。


「本当ですよ、俺たちは嘘なんてついていません!」


 ロイが少しムキになって主張する。


「ああ。嘘だと言っているわけじゃないんだ」


 ギルドマスターはたじたじになりながら彼をなだめた。


「だが、お前も知っての通りAA級以上の冒険者はとても貴重だし、認定するのにも慎重にならざるを得ない。その辺は理解してもらいたいんだが?」


 試すような視線を俺に向けてくる。


「俺だって世捨て人になる前は冒険者だった。冒険者ギルドの考えは知っているつもりだ」


 淡々と答えた。


 昔はA級とS級しかなかったらしいが、強力なモンスターの区分がそれだけじゃ足りないとなって、AA級とSS級が創設されたことは知っている。


 AA級より上は貴重な戦力になるために冒険者ギルドに厚遇されるが、その分認定も慎重になるというわけだ。


「ほう、前は冒険者だったのか。名前を聞いてもいいかな?」


「かまわないが知らないと思うぞ。フランという無名の男だったからな」


 正確にはリーダーのアイルとシーフのリリはそれなりに有名だったが。


「知らないな。まあ誰でも無名の時期はあるもんだ」


 ギルドマスターの対応はあっさりしたものだった。

 当然俺のことなんて知らないんだろう。


 誰でも無名の時期はあるか……ちょっとカッコイイと思ってしまった。


「とりあえず、身だしなみのほうは何とかならないか?」


 ギルドマスターは少し困った顔して言ってくる。

 やっぱりそうなるのか。


 【勇気の杖】のメンバーに先に言われていたので、今さら傷ついたりはしなかったが。

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