第3話 久しぶりに外に出てみよう

「大丈夫か?」


 ずいぶんと久しぶりに人と会話するので多少勇気が必要だった。


「あ、ああ……あんたは?」


 助けたはずの男性に警戒する目を向けられるのは悲しいが、考えてみればろくに風呂に入ってないし、着替えすらなかったのだ。


 だからもしかしたら彼らから見た今の俺は蛮族か何かに見えているのかもしれない。


 身だしなみについて考える余裕なんてなかったもんな。


「フランっていう。怪しい者じゃない。一応冒険者だった男だ」


 あの後、ろくに手続きをしなかったから、もしかしたら失踪扱いになっているのかもしれない。


 ギリギリでそれに思い至ったので、過去形で話す。


「フランさんっていうのか。助けてくれてありがとう。俺はロイ。B級冒険者【勇気の杖】のリーダーをやってる」


「B級冒険者だったのか」


 B級冒険者がやられそうになっていたところを見ると、やはりあのブラッディベアはA級の強さを持っていたと考えていいな。


「あんたくらい強いなら有名になってないほうがおかしいんだが……もしかして異名が有名なパターンか?」


 ロイの言葉に苦笑する。


「いや、無名のはずだよ。ずっと修行していたんだから」


「そ、そうなのか」


 俺の答えにロイは一瞬とまどったようだが、すぐに受け入れた。


 どこかに引きこもって修行に明け暮れる人物がまったくいないわけでもないからな。


「ところで仲間のけがは大丈夫なのか?」


 ちらりと視線をロイの後ろに移すと、彼らの仲間が倒れてる面子の手当てをおこなっている。


「ああ。命に別状はない」


 さすがはB級と言うべきか、致命傷は巧みに避けていたらしい。


「ところであんたは外に出るつもりはあるのか?」


 ロイが視線をこっちに戻して問いかけてくる。


「ああ。どれくらい強くなれたのかを確かめるため、一回外に出ようとは思っていたんだ」


 そういう時に遭遇したので運がよかったと言えた。


「そうか。よかったら俺たちからもあんたの強さを冒険者ギルドに紹介させてもらうよ」


「感謝する」


 ロイの申し出を喜んで受け入れる。


 A級相当のモンスターを一人で倒したと自己申告するより、証人になってくれる人がいたほうが信用されやすいだろう。


「危ないところを助けてもらったんだ。せめてものお礼さ」


 ロイの言葉にうなずいて俺は凍りついたブラッディベアの首から上を斬り落とす。


「たしかクマ型モンスターの討伐証明は頭部だったよな」


「あ、ああ……今は何をやったんだい?」


 首を抱える俺に対してロイは目を見開いて、呆然としたように問いかける。


「ああこれか」


 俺は氷の剣を作って彼に見せた。


「は、速すぎて見えなかったよ」


 ロイはすごいと感心する。


 速く作れないと近距離戦闘で不利になるからね。

 何とか努力し続けたら速く作れるようになったんだ。


「フランさんやっぱりすごい人だね。S級並みに強いんじゃない?」


「さて、それはどうかな」


 ロイの言葉をはぐらかす。


 今の俺がどれくらい強くなったか確かめようとしているんだから、現段階じゃはっきりしたことは言えない。


「助けてくれてありがとうございます」


 俺がブラッディベアの頭部を抱えたところでロイと一緒に合流すると、残りのメンバーからもお礼を言われた。


「どういたしまして」


 このパーティー、美男美女だなぁと感心する。


 男三人で女二人だといざという時揉めそうな気もするが、他人が口を出すことでもないか。


「失礼ながら、最低限身だしなみを整えられたほうがいいと思いますが」


 女性二人がちょっと顔をしかめて指摘してきて、ちょっぴり傷つく。

 だが、男同士なら気にならなくても女子なら気になることがあるのは当然か。


「そうだな。もっとも今の俺は金がないんだが」


 実のところ多少は残っているが、一から身だしなみを整えるにはおそらく足りないはずだ。


 元々アイルと違ってさっぱりモテなかったので、いつからか身だしなみにいっさい気を遣わなくなったんだが。


「それくらいなら私たちが出しますよ。さすがに命を救っていただいたお礼としては少なすぎるので、他にも何かあればお申し付けください」

 

 神官の可愛らしい女性がきりっとした顔で言い放つ。


「やってもらいたいことか……森林にこもって修行している間に何がどう変わったのか、彼らに教えてもらうのが一番かな」


 時間の流れとそれにともなう様々な変化を一人で知るのは大変だろうしね。


「わかりました。喜んで」


 ロイが笑顔で引き受けてくれた。

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