第2話 フラン、自分の可能性に気づく

 もしかして今までの俺は間違っていたんじゃないかと思うと、居ても立っても居られないられずに体を起こす。


「冷えろ、凍れ」


 今までは冷やさないことだけを考えてきたが、今回は逆だ。

 もっと冷えろ、凍りつけと念じる。


 すぐには効果が表れないけど、他にすがるものがない以上、ひたすら練習をしよう。


「冷えろ」


「凍れ」


 くり返していくうちに小さな氷が生まれていることに気づく。


「おお……」


 一つの成果を実感できてうれしかった。

 そうか、冷えるのを防ぐんじゃなくて、もっと冷やせばよかったのか。


 まだどうなるかわからないが、希望は見えた。

 頑張って強くなってやる。


 そしてリリたちを見返すんだっ!


 希望が見えたので安心して眠ることができた。

 翌日、朝早く目を覚めて軽く食べるとさっそくトレーニングを再開する。


「冷えろ! 冷えろ! 冷えろ!」


 作れる氷が少しずつ大きくなってきた。

 これはいけるかもしれない!


 強くなるんだ!

 今よりももっと強く! 一人でもC級冒険者だと胸張れるくらいに!


「凍れ! 冷えろ! 凍れ!」


 食事をとって休憩を挟みながら、ひたすらトレーニングをする。

 氷の大きさはだんだんと大きくなってきた。


 ついに木々が一本凍った。

 すげえ!


 たしかこれはD級魔法相当の威力になるはずだ。

 外れスキルだったはずが、D級相当の魔法までなれたか!


 もちろんこれで満足したりはしない。


 本格的にトレーニングして日が浅いのにこれってことは、きっとまだまだ伸びしろがあるだろう!


 もっと強く!

 もっと凍れ!


「凍れ! 凍れ! すべてが凍るくらいに!」


 くり返す。

 ふらふらになるまで、集中力が途切れるまでくり返す。


 少しずつ強くなっていくのが楽しい。

 アイルがどんどん強くなっていくのをずっと指をくわえて眺めていた。


 俺には縁がないことなのかとあきらめかけていた。

 たまっていたうっぷんが晴れていくようだった。


「頑張るぞ!」


 いつかアイルと肩を並べられるように、アイルを超えられるように。

 そう思って気合を入れた。


◇◇◇


 それからかなりの時間が経過して。


「凍れ」


 川に手を入れながらスキルを発動させると、川の水が一気の凍り付く。

 俺のスキルはS級相当の力を発揮するようになっていた。


「そろそろ森の外に出るかな」


 どれくらいの時間が経ったのか、正確なところはわからない。

 スキルを解除して川の水を元通りにする。


 ここまで鍛えたせいか、意図に反して何かを冷やすということはなくなっていた。


 あれほど上手くやれなくて頭を抱えていた制御の問題も、解決してしまったのだった。


 今の俺はどうなっているのか不安は不思議とない。

 冒険者人生を再出発できるんだというワクワクのほうがずっと大きかった。


 森の出口を目指して歩いていると、ズーンという地響きのような音が聞こえる。


「おや?」


 この森林にボスと言えるほどのモンスターはいなかったはずで、だからここを修行場に選んでトレーニングしていたんだけどな。


 もっとも、モンスターが他の場所から移ってきた可能性はある。


 とりあえず俺がどれくらい強くなったのか、モンスターと戦って実感してみたいし行ってみるとしよう。


 音がした先には赤いクマと五人の男女のパーティーが向かい合っている。

 うち二人が血を流しながら倒れていて、まだ立っている少年の剣は折れていた。


 はっきり言ってかなりまずい状況だな。

 赤いクマはおそらくB級相当のブラッドベアだろう。


 C級パーティーで安全に勝つためには五人くらい必要になるんだが……。

 ブラッドベアが立ちあがるとかなりデカいとわかる。


 クマ型モンスターはデカいほど強いので、もしかしたらA級に近い強さを持っているのかもしれない。


 だとするとかなり危ないな。


「凍れ!」


 これだけやばい状況なら獲物の横取りだと言われることもないだろう。

 地面が凍っていき、一気にブラッディベアの足まで凍らせてしまう。


「ガガ!?」


 ブラッディベアは不意打ち横殴りに驚いてもがくが、凍った足は動けない。

 三人が驚いてこっちを見ているが、彼への対応は後回しだ。


 一気に距離を詰めて再び冷気を送り込む。


「凍れ!」


 今度の冷気でブラッディベアは一気に頭まで凍ってしまった。

 まだ力加減が微妙にわかっていない気がするな……。

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