外れスキル【冷え性】を最強スキル【絶対零度】に進化させた俺が世界の全てを凍結させるまで
相野仁
第一章
第1話 迷惑だと追い出される
冒険が終わった後、話があると言われたのでついていくと、パーティーの仲間たちみんなから冷たい目を向けられる。
「すまないがフラン、これ以上君とはやっていけないんだ」
Cランクパーティー【青い翼】のリーダーのアイルが申し訳なさそうな顔で告げる。
「理由を聞いてもいいか?」
何となく予感はあったので、そうならないように回避する努力していたつもりだった。
「決まってるでしょ。あんたのスキル【冷え性】のせいよ。女の子にとって冷え性は天敵だって知らないの!?」
シーフのリリが怒りをあらわにする。
「スキルが外れなのはまだ許容できるけど、迷惑なのはもうウンザリ」
魔法使いのミレが不愉快そうに顔をしかめた。
「フランさんのスキル、雑魚寝する際に私たちにまで影響が出るんですよ。冒険中、別れて眠るのが難しいことを思えば……せめて【氷王】のように制御できていれば」
神官のゾエが遠慮がちに指摘してくる。
なんてこった。
女子たちが嫌がる理由がもっともすぎて、何の反論も思い浮かばない。
「君だけが悪いとは思わないけど、一緒にパーティーをやっていくのが難しい理由は理解してくれたと思う」
「わかった……」
言いたいことは山ほどあるけど、こみ上げてくる悔しさと一緒に飲み込む。
「今まで世話になったな」
言葉をかけた俺に視線を合わせてくれたのはアイルとゾエだけだった。
そんだけ俺のことが嫌だったのか。
みじめな気持ちになりながら踵を返す。
「あー、ようやく厄介払いできてせいせいしたわ!」
リリの嫌味が聞こえて来て余計にいたたまれなくなった。
貯金はいくらかあるので、どこかあいつらがいない遠くの町に行こう。
結成時から一緒に頑張ってきたパーティーを追い出された場所で暮らすなんて、みじめすぎて耐えられない。
どこに行こうか走りながら考えて、ほとぼりが冷めるまでは人があまりいない森林で暮らそうとひらめいた。
俺が持っているスキル【冷え性】は何の役にも立たない。
それどころか眠ると近くにいる人間の体も冷やしてしまう効果があるようだ。
迷惑だと言われたのがこれが原因だろう……つまり一人で暮らす分には迷惑がかからないということだ。
わき目もふらずに走ったせいで場所がわからなくなってしまったが、ちょうどよさそうな森林が目の前に広がっている。
あの町から乗り物を使わずに行ける距離に強力なモンスターはいないはずなので、ここにするとしよう。
一人で野宿するなら何とでもなるので、さっそくトレーニングでもしようか。
【冷え性】をもう少しコントロールできるようになれば、新しくパーティーを探すこともできるだろう。
冷えるな、冷えるな、冷えるな。
そう思うがさっぱり上手くいかない。
このスキルとは生まれた時からのつき合いで、みんなに笑われながらもずっと練習してきたんだ。
そして唯一笑わなかったアイルのパーティーに入れてもらった。
アイルだけは俺のことを信じていてくれたのかもしれないと思うと、心が痛む。
嫌な考えを振り払い、ひたすら【冷え性】を鍛える。
「スロウリィ」
「スロウリィ」
仲間もいないので寝食の時間を削って、トレーニングの時間にあてよう。
「スロウリィ」
ひたすらやっていたが、やがて集中力が途切れて仰向けに転がる。
とりあえずアイテム袋から水筒を取り出して水を飲む。
いつの間にか日は落ちて星が煌めく夜になっていた。
「気づかなかった」
これだけトレーニングに時間を使えたのはずいぶんと久しぶりのことだ。
アイルとパーティーを組んで以降は、スキルが役立たずだからせめてと雑用はこなしていたからな。
その必要がなくなったのは寂しいが、自分のために使える時間が増えたと考えよう。
休んだので再びトレーニングを再開する。
「スロウリィ」
「スロウリィ」
延々と同じことをくり返すがまったく進歩がない。
相変わらず触れたものがひんやりとするままだ。
ダメだな……そう思って再び寝転がると、地面がひんやりしていたことに驚く。
俺が立っていたところがひんやりするのはいつものことなんだが、離れた位置まで冷たくなっているのはどういうことだ?
こんな離れた場所を冷やすほどの能力じゃなかったはずだけど。
…………もしかして俺って自分のスキルについて何か勘違いしていたのか?
離れたところまで冷やせるように鍛えるべきだったんじゃないのか?
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