第6話 S級認定クエスト
まずは公衆浴場に行ってそれから理容店で髪とヒゲを何とかしてもらった。
代金はすべて【勇気の杖】が立て替えてくれた。
「おおお」
「フランさん、けっこう美形なんですね」
ロイは見違えたと言ってくれたが、何やら女子二人の好感度があがった気がする。
人間見た目は大事だとアイルとゾエが昔言ってたけど、ちょっと実感したように思う。
服もロイが買ってくれたものを着て再び冒険者ギルドに行った。
「……失礼ながらフラン様でしょうか?」
受付嬢が半信半疑という顔で聞いてくる。
「無理もない。完全に別人ですから」
ロイが苦笑していた。
「たしかにフランですよ」
と名乗ると受付嬢がぽっと頬を赤らめた……気がするが、たぶん羞恥心だな。
「おお、フラン戻ったか」
再びギルドマスターが姿を見せて一枚の紙を差し出す。
「これがS級認定クエストの内容だ。クリアすればお前さんは正式にS級冒険者になる」
「どれどれ」
内容を確認してみると、ベスビオ山に行ってそこにしか存在していないベスビオ鉱石を持ち帰れというものだ。
「この町からベスビオ山は馬車で五日ほどかかる。期限は十四日で、それを過ぎたら失敗扱いとなる」
ギルドマスターの説明にうなずく。
ベスビオ鉱石は他の場所にも存在しているが、十四日で戻って来れる距離にはない。
期限を過ぎたら失格というのはそういう意味もあるんじゃないかと思う。
もっともどこに行こうとも危険度が高い場所だという気はするが。
「じゃあさっそく行きたいが」
「おいおい、手ぶらで行く気か?」
ギルドマスターが呆れる。
「お前さんがどれだけ強かろうと、十四日分の水と食料は持っていくべきだと思うぞ」
その指摘は正しかったので何も言い返せず、もう一度うなずいた。
「【デーモンベア】討伐報酬は金貨五十枚だが、大銀貨で受け取るか?」
ギルドマスターの問いに俺は思わずロイたちを見る。
「僕たちは助けていただいたので受け取れませんよ」
どうやら全額俺がもらえるらしい。
金貨五枚って地方なら家も買える大金じゃないか。
AA級やS級ってやっぱりすごく稼ぐんだなと思う。
「金貨と大銀貨を混ぜてもらえるか?」
金貨は大銀貨100枚分の価値があるが、その分使い道が少ない。
日常で使うのは銀貨と大銀貨で充分だろうけど、金貨も一応持っておこうか。
「わかった。少し待ってくれ。ところで財布やアイテム袋はどうする?」
ギルドマスターの問いに考え込む。
たしかに持ち運びを考えるなら新しく買ったほうがいいだろうな。
「僕たちがプレゼントしますよ」
黙ってやり取りを聞いていたロイがそう申し出る。
「そうか?」
「ええ」
命に比べたら安いと言われたら断れないので、言葉に甘えておこう。
大きめのアイテム袋と財布を買ってもらい、さらに水と食料も買ってもらった。
「色々としてもらって悪いな」
「みんなの命分だと考えればお安いご用ですよ」
ロイは笑う。
さらに彼はベスビオ山のふもとまで行く馬車の乗り場の行き方も教えてくれる。
接待されている、恩返しされているというよりは面倒を見てもらってる感じが強くなってきた。
三年の空白を埋めるためにはちょうどいい。
「ところでフランさん、三年ならまだ知り合いは生きているのでは?」
ロイが不意にそんなことをたずねてきた。
知り合いか……たしかに冒険者は過酷な仕事だと言っても、無茶しなければ三年くらいは余裕で生きられる。
「どうだかな」
そっけなく答えた。
正直なところアイルは今どうしているのか気になるが、他の三人のことなんてどうでもいい。
何かを感じたのか、ロイたちはもう何も聞いてこなかった。
「それではお気をつけて」
「ああ、世話になった」
町の中にある馬車の乗り場でロイたちと別れる。
感じのいいメンバーだったな。
彼らはきっと力をつけて再びA級認定クエストに挑戦するだろう。
そうなることを願っている。
ベスビオ山行きの馬車に乗る者は一人もいなかった。
A級以上の冒険者となると独自の移動手段を持つパーティーが出てくるせいだろうか。
途中で街に寄るのに誰も乗らないのはおそらく偶然だろうけど。
これをクリアすれば夢に見たS級に昇格できるので少しワクワクしている。
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