第7話 ベスビオ山
何事もなく山のふもとの村に着いたので、さっそく聞き込みでもしよう。
たまたま通りがかった老人に聞いてみる。
「ベスビオ鉱石を採りに来たんですが、どのあたりで採れますか?」
老人はじろじろと無遠慮な視線を投げてきて、あきれた顔になった。
「あんた、軽装備にもほどがあるだろ。どれくらい腕が立つのかは知らないが、いくら何でもベスビオ山を舐めすぎてるんじゃないかね」
正論だったので反論はひかえよう。
俺だって【ブラッディベア】を瞬殺できていなかったら、もうちょっと真面目に装備を考えたと思う。
「ベスビオ山ってそれだけやばいんですか?」
知らなかったという態度を見せたのは、現在の情報をできるだけ引き出したかったからだ。
無愛想ながら心配してくれてるらしい老人なら、きっと色々と教えてくれるだろう。
「あんた何も知らんのかね? 今、あの山はレッドドラゴンとサラマンダーが活動しておる。こうして村にいるなら無害だが、山に入るなら覚悟が必要だよ」
老人は心配そうにこっちを見る。
レッドドラゴンは最低でもAA級、サラマンダーもA級からAA級だ。
はっきり言ってS級認定クエストにしてはレベルが高い。
ベスビオ山は高位のモンスターがいるらしいとは聞いていたが、これはちょっと誤算かもしれない……冒険者ギルドにとって。
「何かあったのかな? そんなモンスターが寄ってくるような事態が」
いくら何でも環境が変わりすぎだろうと思って聞いてみる。
「さあね」
老人はうって変わってそっけない態度になる。
何か知っていそうだったが、強引に聞こうとしてもこれは教えてくれそうにもない。
「とりあえず今は地元民ですら近づかない状況だ。やめておいたほうがいいよ」
老人はあくまでもやめさせたいらしいが、そういうわけにもいかない。
「無理そうだったら引き返すので、ベスビオ鉱石が採れる場所を教えてくれませんか?」
一応聞いてみたら、彼はため息をついて教えてくれる。
「山道を登って中腹まで行けば、赤く光っている石が落ちている。それがベスビオ鉱石だよ。もっとも今の環境だと生きてたどり着けるかは知らないぞ」
「ありがとうございます。命は惜しいので無茶はしませんよ」
と言って別れる。
これを報告したら冒険者ギルドはおそらくS級認定クエストを、やり直してくれるかもしれない。
だが、今の俺の実力がレッドドラゴンにどこまで通用するのか試してみたい気持ちもあるし、何より原因について気になっている。
調査するのはみんなにとって悪くないはずだった。
ベスビオ山をゆっくりと登っていく。
火の力が強い山だからか、普通の植物は何も生えていない。
水じゃなくて火の力を吸って育つというフレアフラワーくらいしか見かけなかった。
火の力が強くて暑いし、水分なんてものはないかなり過酷な環境だ。
「冷えろ」
俺はスキルのおかげで快適な環境を作れるので問題ないんだが。
あんまり近づきすぎるとフレアフラワーが枯れてしまうから気をつけて歩こう。
五〇〇メトほど歩いたところで、燃え盛る炎の人型が出現する。
モンスターじゃなくて火の精霊だ。
火の属性が強い場所の火の精霊の強さは最低でもA級だろうか。
普段はこっちから戦いを仕かけない限りは何もしてこないはずだが、目の前の存在はどう見ても俺と戦う気満々だ。
最初の敵が荒ぶる火の精霊(火の属性が強い場所)とか、たしかに普通じゃ命がいくつあっても足りない場所だと忠告されるよ。
老人の心配は本物だったなと思いながら、火の精霊にスキルを使う。
「凍れ」
火の精霊はたちまち凍りつくが、精霊はこれくらいじゃ消滅しない。
少し待つと自力で解凍して復活する。
ただ、頭は冷えたようでさっきまで放っていた敵意が消えていて、俺が横切っても攻撃してこなかった。
精霊にはあんまり喧嘩を売らないほうがいいとアイルが言っていたのを、ひとまずは守った形である。
曲がりくねった道を進んでいくにつれて、だんだんと体感温度があがってきたような気がしてきたので、とりあえず冷やす力を強めておこう。
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