第8話 遭遇

 老人の忠告が本物だと知ったのは少し経ってからだった。

 左右に興奮状態のサラマンダーが二体同時に出現したからである。


「サイズ的にはどっちもA級相当か……?」


 全部に当てはまるわけじゃないが、たいていのモンスターはサイズが大きいほど強いという法則があった。


 その法則を適用するなら、成人男性くらいの大きさがあるサラマンダーたちはAA級に近い強さでも不思議じゃない。


 勢いが活性化して好戦的になっているサラマンダー相手に果たして俺の力は通用するのか。


 サラマンダーたちは同時に口を開いて赤い炎を吹いてくる。

 火吐き蜥蜴の異名の通り、「ファイアブレス」こそ彼らの最大の武器だ。


 どちらも腰から上を狙った放射状のブレスだったので、地面に転がりながら避けて反撃する。


「凍れ」


 別に俺のスキルは一度に一つの対象しか凍らない、なんて制約はない。

 左右のサラマンダーたちを同時に凍らせた。


 火の精霊と違ってサラマンダーは倒してしまっても問題ないからな。

 二体のサラマンダーは凍死したらしく、そのまま態勢を崩す。


 討伐証明として首から上を斬り落として、アイテム袋に入れておこう。

 サラマンダーは一体につき金貨をもらえるはずなのでいい稼ぎになる。


 五〇〇メトほど歩いたところでさらにサラマンダーが三体追加で現れた時、思っていた以上にこの山が異常な状態なのだと悟った。


 A級相当のモンスターとこうもホイホイ遭遇するなら、ベスビオ山はもっと違う意味で有名になっているはずだから。


「凍れ」


 とりあえずサラマンダー三体には何もさせず凍死してもらい、頭部を斬りとってアイテム袋に入れておく。


 そして三〇〇メトほど歩いたところで、高ぶってる火の精霊と遭遇する。


「いったい何が起こっているんだ?」


 たぶんだが火山の噴火が間近だとしてもこうはならないはずだし、レッドドラゴンが住み着いたのも理由にはならない。


 もしかしたら単に火の属性のモンスターテイマーがベスビオ山に拠点をかまえ、その影響が出ているかもしれない。


 俺が思いつく限りで一番マシな可能性がこれなので、素直に考えてもっとやばい理由がありそうだが。


 中腹までならそこまで危険はないだろうと思いながら進んでいくと、赤く光る珊瑚によく似た形状の石が道端にある。


「おっと、これがベスビオ鉱石だな」


 本来ならピッケルで採るべきなんだろうが、今回は手づかみで折ってアイテム袋に入れた。


 これでクエストは達成したなと思っていたら、大きく地面が揺れ前方から真紅の鱗を持ったレッドドラゴンがやってくる。


 それだけなら想定した事態なので、俺は驚かなかっただろう。


 問題なのはレッドドラゴンが明らかに怯えた様子だったことと、さらに全身が焦げていたことだった。


「どういう状況だ?」


 思わず声に出すとレッドドラゴンはどうやら俺に気づいた上に敵認定したらしく、口を開いてブレスのモーションに入る。


 ドラゴンノブレスは厄介なのでわざわざ撃たせてやることはない。


「凍りつけ」


 頭部を凍らせてやる。


 手負いと言えど、レッドドラゴンにも問題なく俺のスキルは通用したので、レッドドラゴンはそのまま倒れ込む。


 ……頭部が凍っただけであっさり死ぬとは、俺が強くなりすぎたのか。

 それともレッドドラゴンが見た目以上に弱っていたのか。


 ドオンという音が聞こえて、何やら強大な気配が近づいてくるのを感じる。

 おそらくだが後者なんだろうなと予感が走った。


 火の精霊もサラマンダーも、そしてレッドドラゴンも可愛く見えるような重厚で暑苦しい存在感が迫ってくる。


 地面だけじゃなくて空間が揺れているような感覚とともに、銀色の全身鎧をまとって銀色の兜で顔を隠した存在が現れた。


 俺の気配探知能力じゃ人間かどうかすらわからないが、おそらくレッドドラゴンをボコって逃走させた原因だろうなと直感する。


 鎧のつなぎめあたりからは白い炎が時々吹き出していて、もしかしてこの炎がレッドドラゴンを焼いたのか? と推測した。


 同時に火属性特化で火と熱に強いはずのレッドドラゴンを焼くなんて、いったいどんな火力なのかと思わざるをえない。

 

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