第38話 ロックドラゴン
俺たちが先に選んだのはロックドラゴンの撃退だった。
人間に敵意を一切感じさせなかったスーとは違い、近づく人間すべてを威嚇して場合によってはブレスを吐いてくるので、撃退目標に設定されたらしい。
「ロックドラゴンはそんな好戦的なのか?」
ベンちゃんに乗るために皇都の外に出たところで俺はスーにたずねる。
「小物だからな。人間が怖いのかもしれないな」
スーはよく知らないらしかった。
「ロックドラゴンが人間を警戒する理由で考えられるのは、子育て中などではないでしょうか?」
ルーの意見にハッとなる。
「なるほど、子育てか」
どんなモンスターだって神経をとがらせる時期が子育て時期だというのは、昔に習った覚えがあった。
「だとするとやりにくいな」
安心できる場所で子育てしていたら人間に狙われるようになったと考えると、ロックドラゴンが悪いと言えるのだろうか。
「フランさんはお優しいですね」
ルーがうれしそうに笑う。
「依頼内容は撃退なのですから、ロックドラゴンにお願いして移動してもらうというのはいかがでしょう?」
彼女の提案はとても素晴らしく、また俺好みだった。
「それはいいアイデアだな」
ポンと手を叩く。
「説得はスーにも手伝ってもらうぞ?」
人間の俺たちが言うより、アイオーンドラゴンが言ったほうが説得しやすいだろう。
相手は同じドラゴン族なんだから。
「仕方ないな。それくらいはやるか」
スーは苦笑に近い表情で答える。
本来思い描いていた人間の冒険とは違う、とでも言いたそうだった。
「人間にもいろいろいて、俺は避けられる戦いは避けたいタイプなんだよ」
「まあ、無礼で好戦的な命知らずどもより、何倍も好ましいが」
説明するとスーは仕方ないなと笑う。
もしかしてどこかの命知らずに喧嘩を売られたことでもあるんだろうか?
興味を持って彼女の整った顔を見たけど、彼女は何だ? と聞き返してきただけだった。
とりあえずロックドラゴンとは対話することで意見は一致したので、フェニックスのベンちゃんに乗って目的地のアゼン山脈へと出発する。
「フェニックスはけっこう速いな」
目的地付近で降りた時、スーは満足そうに言った。
「さすがにアイオーンドラゴンよりは速度は出ないと思いますが」
ルーがそう言って微笑み、ベンちゃんを帰還させる。
「アイオーンドラゴンより速いのってガルーダくらいじゃないのかな」
と俺は自分の予想を口にした。
ガルーダは風属性の神鳥の異名を持つモンスターで、フェニックスからすればライバルみたいなものらしい。
「あいつらと勝負したことはないな。というかどこにいるのかわからん」
スーは少し無念そうに言った。
アイオーンドラゴンとガルーダが接触するような展開なんて、人間としては避けたいところだよ。
そもそもどっちも生息数少ないはずだけど。
俺たちは緊張感がないまま山へと接近していくと、グルグルと低くて大きな威嚇音が聞こえて来た。
「出て来たか」
アリを見つけたような気楽な口調でスーが言う。
俺たちの前方には灰褐色の鱗をまとった動く小山とでも形容したくなる、ロックドラゴンが歩いてくる。
体のサイズはスーよりひと回り大きいが、彼女より強いということはないだろう。
「おい、同族」
スーが威厳を込めて話しかけると、ロックドラゴンの大きな体がぴくりと震える。
「この気配、ドラゴン族か?」
ロックドラゴンの視線がスーに固定された。
「そうだ。ここだと人間どもがうるさい。もう少し他の場所に移動したらどうだ?」
上から目線の発言というものがあるなら、スーの言葉がそうだろうなと思うしかない言い方だった。
「なぜ我が貴様らに指図されなければならんのだ?」
当然ロックドラゴンは腹を立てる。
「スー、もう少し穏便にできないのか?」
「穏便にすませているだろう?」
俺の注文に対してスーは心底不思議そうに聞き返す。
……もしかして力で訴えず対話をする時点で、スーにとっては穏便な手段ということになるんだろうか?
「これは俺が悪かったな」
「私の責任でもありますよ」
俺が反省するとルーが慰めるように言った。
「貴様ら我のナワバリにずかずかやってきて、何をごちゃごちゃと」
ロックドラゴンが怒ってブレスを吐いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます