第39話 相手を見て選ぼう
「凍れ」
ロックドラゴンのサンドブレスは俺が対処して凍らせた。
「何!?」
自慢のブレスが凍結して無力化されたことにロックドラゴンはぎょっとして硬直する。
「お前ごときじゃフランには傷ひとつつけられないだろうよ」
スーが笑いながら言った。
警告しているというよりはからかっているような口調だ。
「おのれ……」
ロックドラゴンは屈辱と怒りで全身を震わせる。
「我が命にかえてもここは通さんぞ!」
ロックドラゴンは戦意を喪失するどころか、かえって燃えたらしい。
悲壮な決意が伝わってくるので俺は誤解を解こうと試みる。
「俺たちはあんたと戦いに来たんじゃない。人間がいない場所に引っ越ししてくれないかと相談しに来たんだ」
「……人間は口が上手いからな。信用できんわ!」
ロックドラゴンは一瞬の間を置いて拒絶した。
まるで以前に誰か人間に騙された経験でもあるかのような口ぶりに疑問を持つ。
だが、同時に厄介なことになったとため息をつきたくなる。
「人間の勝手な事情で移動してもらいたいんだ。せめて話し合いで解決したいんだけどな」
きれいごとかもしれないけど、俺としてはできるだけ譲りたくない一線だった。
「何を勝手なことを!」
当然のようにロックドラゴンは怒る。
そりゃそうだと思えるのでどうしようか。
なんて悩んでいたらスーが前に出て言った。
「しょせん強者が己の要求を押し通すのが世の理、下っ端はおとなしく従うがよい」
何とも強硬すぎる意見だったが、同時にアイオーンドラゴンとしての存在感を解放して、ロックドラゴンに叩きつける。
「ひぃっ」
たちまちロックドラゴンは怯えて後ずさりをした。
「こ、この横暴なプレッシャーは……」
ガタガタ震えながらわりと挑発的なことを言うんだなと、ちょっと感心してしまう。
「力の差は理解したか?」
「は、はい」
スーの問いにロックドラゴンはブルブル震えながら必死にうなずく。
「ならば人里から離れた場所へ移動しろ。わたしたちが優しく頼んでいるうちにな」
「わ、わかりました」
凄んでみせるスーに対してロックドラゴンは必死にうなずいて、こそこそと逃げ出した。
「スー」
困って俺が声をかけると、彼女は不思議そうな顔で視線を返す。
「おまえの希望通り、戦わずに奴は移動を決めただろうに何が不満なんだ?」
「うーん」
何か違うと思うのはぜいたくなのだろうかとフランは悩む。
少なくともスーは善意で行動したのだし、結果的に血が流れなかったのだから文句を言うのはおかしいという気はしていた。
「争いを避けるのは人として美点かもしれないが、われらドラゴン族のように力に重点を置く種相手には逆効果だぞ。話し合いとは力なき者がする行為だと本気で思っている奴らがいくらでもいるからな」
スーは俺を諭すように話す。
「そうか。そうだな」
力を好み、力以外を軽んじる相手だと、力を見せたほうが話は早くなるか。
「相手を見て手段を選ぶべきだったか」
融通が利かない奴だったのかもしれないと反省する。
「誰が相手でも話し合いから入るフランさんの優しさと冷静さは素敵だと思います。私は好きですよ」
ルーは笑顔で優しくなぐさめてくれた。
「ありがとう」
そう言ってもらえるとちょっとは俺も救われるってものだ。
ルーは女神さまみたいに優しいな……照れくさいから言えないが。
「とりあえずロックドラゴンの撃退依頼はこれで達成か」
戦って追い払えとは言われてないから何の問題もないはずだった。
「幸先がいいと人間なら言うところか?」
スーは意外と人間の言葉に詳しいところを見せる。
「そうだな。言っていいだろう」
ロックドラゴンには気の毒だったが、血を流さずに目的を達成するという理想的な結果に終わったんだから。
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