第40話 雪薔薇の採取

 プリーナ平原は皇都の東にあるが、ベンちゃんに乗れば馬よりの圧倒的短い時間で到着できる。


 ついた場所は短い多数の草が風に揺られている中、背の高い花がいろんな色であたりを彩っていた。


 なかなかいい眺めで、観光地として子ども連れに人気かもしれないなと思う。


「俺たちの冒険で最大の功労者はベンちゃんかもしれないな」


 プリーナ平原に降りた時、俺はそう軽口を叩く。


「言えてますね」


 ルーはくすっと笑って賛成してくれる。


 冒険者となると移動距離はどうしても増えるので、その点の問題点を解決してくれる存在は実にありがたい。


「わたしのほうが速いと思うが」


 何やらスーは対抗心を刺激されたらしく、そんなことを言う。


「なら乗り物になってくれるか?」


 からかうつもりで言ったんだけど、彼女は意外なことにうなずいた。


「いいだろう。わたしを負かしたフランを乗せる分にはな」


「本当か?」

 

 念のため聞いてみるとスーはにやりと笑う。


「フェニックスに三人乗りはきついだろう? わたしが飛ぶ側になればもっと速く移動できるぞ」


 そして挑戦的な目でルーを見る。

 もしかしてこの子、ベンちゃんのことを煽っているのか?


 どれだけ負けず嫌いなんだろう。

 ルーはと言うと苦笑しているだけだった。


「とりあえず雪薔薇を探そう。後のことは後で考えればいいだろう」


「ふん」


 その場しのぎのアイデアだったけど、反対は出なかった。


「雪薔薇とやらはどんな見た目なんだ?」


 スーは頭を切り替えたらしく問いかけてくる。

 優先順位をしっかり理解してくれているようで何よりだ。


「雪のような白い花びらと青い葉っぱが特徴だったと思います」


 ルーは元王族らしく知識が豊富なところを見せる。


「とりあえず白い花を集めてみようか。他にも売り物になるやつはあるだろうし」


「そうですね。採取を禁止されているものはなかったはずですから、問題はないでしょう」


 俺の提案にルーは賛成した。


 スーにしてみればとにかく白い花を、というほうがわかりやすいという狙いが、彼女にも理解できたのだろう。


「任せろ」


 スーは何やら張りきっている。


「植物の生態に影響が出そうなことはやめてくれよ?」


 意識の違いはすでに思い知っているのでくぎを刺しておく。


「わかっている。五、六本くらいならば問題ないだろう?」


 返ってきたスーの答えで彼女を見直した。 

 感覚が変わっているだけで非常識とまでは言えないかもしれない。


「ああ。そうだね。一人五本くらいを上限にしようか」


 みんなで十五本だけど、これくらいでピンチになる希少種なら採取禁止、あるいは制限指定が出ているはずだった。


「わかった」


「了解です」


 俺たちは三手にわかれて野草探しをはじめる。

 

 昔、こういう地道な作業をやったな。


 今回は雪薔薇を探すという単純作業なので、特別なテクニックも知識も必要ないだろう。


 必要なのは集中力と根気、最低限の知識だ。


 まず赤い花は……これはポーションに使う材料だからとっておこう。

 隣の黒い花は毒草だからやめておくか。


 プリーナ平原に生えている草花も、知っているものが多くて少し安心する。

 昔、薬草事典を読んでいたのは無駄じゃなかったということだ。

 

 調べていくうちに目標の雪のように白い花びらと青い葉っぱの草を見つける。


「うん、これが雪薔薇だな」


 ていねいにとって収納した。

 特に保管に気をつけるべき花じゃないからこれでいいだろう。


 しかし、一か所にまとまって咲いているということはないらしく、近くには他の種類の花しかない。


 変な生態だな……それとも単に俺が植物についてそんなに詳しくないだけだろうか?


 しばらく歩いてまた一つ見つけ……をくり返して五つになったところで顔をあげる。


 他の二人はまだ探しているようだった。


 ルーとスーの二人のどちらと合流するか、一瞬だけ考えてスーのところへと向かう。

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