第41話 可愛いは褒め言葉

 ルーとスーはまだ探している最中らしかったので、まずはスーの様子を見に行こうか。


 平原に生えている草は短くて柔らかく、歩きやすい。


 サクサクという音を立てて離れた場所にいるスーのところに行くと、彼女は顔をあげてこっちを見る。


「もう終わったのか?」


「ああ。五本集め終わったよ」


 答えると彼女は目を丸くした。


「早いな。わたしはまだ三本だ。……人間ってこういうのが得意なのか」


「ドラゴンよりは得意かもしれないな」


 とスーに応える。


 ドラゴンだって光物、宝物のたぐいを探したり見きわめるのは得意のはずだが、植物は普段縁がないんだろうなぁと思った。


「植物を探すのは今日が初めてなんじゃないか?」


「当然だろ。生きてても関係がないものなんだぞ」


 スーは胸を張るように返答し、俺としては思わず笑いがこぼれる。


「笑うところなのか?」


「ああ、ごめん」


 彼女は少し不本意そうだったので謝った。


「別に馬鹿にするつもりはなかったんだよ。ただ可愛らしいなと思ってね」


「可愛い? わたしが?」


 スーは驚いたように目を丸くする。


「そんなこと言われたことなかったな」


 彼女は少し考え込むように黙り、そして聞いてきた。


「ところで可愛いは褒め言葉なのか?」


「褒め言葉だよ。魅力があるというのは、ドラゴンだと褒め言葉にはならないのかい?」


 ドラゴン族の褒め方なんてたしかに知らないし、今まで想像したことすらない。

 

「ふむ。ドラゴンだと鱗のつやが違うというのだ。覚えておくといいぞ?」


 スーは上目づかいをしながら言ってくる。

 自分を仲間だと思うなら覚えておけってことだろうね。

 

「会った時から鱗のつやが違うドラゴンだなと思っていたよ」


 リップサービスのつもりで言うとスーはからからと笑った。


「なかなか気の利く人間じゃないか。パーティーリーダーとやらはそれくらいのほうがわたしには好ましいと褒めておこう」


「そりゃどうも」


 二人で笑っているところに、ルーがやってくる。


「お二人は雪薔薇の採取は終わったのですか?」

 

 彼女はそうたずねた。


 彼女からすれば俺たちが手を止めて談笑しているように見えたダロウから、質問されるのは無理もない。


「わたしはまだだ。フランはすませたらしい」


 スーが答え、俺が自分の分の雪薔薇をルーに見せた。

 

「さすがフランさん、早いですね」


 彼女は目を輝かせてから小首をかしげる。


「自分の分をすませてスーの手伝いに来たということですか?」


「そうだよ。手伝うならルーよりもこの子のほうだと思ってね」


 説明に納得したらしく、ルーは大きくうなずく。


「なるほど、道理ですね」


「うむ、わたしは初心者だからな。植物採取の」


 スーは明るくからっとしていて、少しも悪びれていなかった。


 たしかに気にする必要はないんだけど、こういうところはドラゴンらしい性格だなと感じる。


「では私にも手伝わせてください」


 ルーは微笑みながら申し出た。


「ああ、よろしく頼むぞ!」


 スーは笑顔で応じる。

 恐縮する様子がまったくないのはいかにも彼女らしい。


 三人で手分けしていると、最初に俺が見つけてすぐにルーが続いて雪薔薇を発見した。


「二人とも早いな……人間という種が繁栄している理由がわかった気がするぞ」


 スーは目を丸くしながら大いに感心している。

 

「それはさすがに大げさだと思いますよ」


 ルーがくすくす笑う。


「同感だな。それに人間は器用さとかもあるからね」


 必要に応じて道具を作って工夫していける点が、人間という種族が持っている強みだと思う。


「ふむ。一面だけを見て語るのは愚かだったな」


 スーはあっさりと自説を撤回する。


 仲間になると言いだした時も思ったが、かなり柔軟な考えを持つドラゴンのようだ。


「さて、目的は達成したよな? 手伝ってもらったわたしが言うことではないが」


 スーがそう言って、ルーの視線もこっちに向けられる。


「当然帰るよ」


 と言ってスーに手を差し出す。


「俺を乗せてくれるなら、雪薔薇はあずかっておこう」


「当然だな」


 うなずいてスーは俺に雪薔薇を手渡す。

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