第42話 返り討ち

 草原の端のほうでスーはドラゴンに変身し、それを見てからルーはベンちゃんを呼び出す。


 ベンちゃんは最初スーに警戒するような視線を向け、ルーに優しくなだめられる。


「大丈夫ですよ。あのドラゴンは仲間ですから」


 彼女の優しい声を聞いているうちにベンちゃんは落ち着きを取り戻す。


「よく手なずけているな。見事なものだ」

 

 ドラゴンになったままでスーがルーのことを褒める。


「穏やかな性格ですし、知性もありますから。自慢の相棒です」


 ベンちゃんは心なしか得意そうな顔になっていた。

 フェニックスの表情を見きわめるのはものすごく難しいけど、雰囲気的にね。


「俺は?」


 ちょっとからかおうと思って聞いてみると、彼女はやっぱり笑顔で応じる。


「大事な仲間です」


「う、うん」


 はっきり言われるとちょっと照れくさいね。

 じゃあ聞くなということだけど、見事に返り討ちにされた気分だった。


 照れずに言えるのがルーの強みだと言えるのかもしれない。


「自分から仕掛けたのにな」


 スーが面白そうに笑っているが、笑われても仕方なかった。


「その通りだね。反省するとしよう」


 と言って彼女の背中にまたがる。


「乗りにくいな。ドラゴンだからか?」


 鞍があったほうが安定していいのだろうか。


「人を乗せたことなどないからな。しっかり捕まれよ」


 スーの言葉にうなずく。


 ベンちゃんと同じくらいのスピードを出せるなら、捕まってないと振り落とされてしまう。


「手加減してくれよ?」


「手加減の仕方がわからん」


 念のため言うとスーにはそんなことを言い返されてちょっと不安になる。


「……人を乗せて飛ぶ練習をまずしたらどうでしょうか? まだ時間はあるのですから」


 ルーに言われてちらりと空を見上げるが、たしかにまだ太陽は高い位置にあった。


「夕暮れならともかく、まだ午後くらいだろうから練習する時間はあるよ」


 練習してくれるならそのほうがこっちはありがたい。


「仕方ないな」


 スーは言ってゆっくりと飛び上がる。

 そして平原の上を翔け回った。


「これくらいなら平気そうだな」


「ああ」


 ちゃんと速度を落としてくれてるせいで少しも怖くない。

 ベンちゃんの速度に慣れてしまったのも大きそうだ。


「なら速度をあげるぞ? わたしにとってはイライラする遅さなんだから」


 とスーは言ってから速度をだんだんとあげていく。

 

「うん、いい感じだな」


「ほう、まだしゃべる余裕があるのか」


 楽しみながら発言をするとスーの速度がさらにあがる。

 周囲の景色が一気に形を崩して、何が何だかわからなくなる領域だ。


 さすがに話すのは厳しくなったので、スーの背中を左手でぽんぽんと叩く。

 すると俺の意図を感じ取ってくれたのか、スーは減速してくれた。


「どうだった?」


「すごかった」


 得意そうな彼女に短く答えると、満足そうな笑い声を立てる。


「そうだろう。フランはなかなか見る目がある男だな」


 と言いつつルーたちが待っている場所へと彼女は着地した。


「すごかったですね」


 ルーが率直な感想を述べたので同意する。


「ああ。さすがアイオーンドラゴンだな」


 SS級最強クラスという呼ばれ方は伊達じゃないと思う。

 今回は強さとは関係ないものだけど。


「いえ、すごいと私が思ったのはフランさんですよ」


「え、俺?」


 聞き返すとルーはくすりと笑う。


「スーさんが速度をあげても落ち着いていらっしゃったので。乗り手が平気な様子だと、速度を出して飛びやすかったはずです」


 そういう意味だったのか。

 特に意識してやっていたわけじゃないんだけど。


「そいつの言う通りだな。人を乗せたのは初めてなんだが、フランは乗り手としてなかなか優秀だった」


 スーは改めて褒めてくれる。


「スーもいいドラゴンだった」


 いい乗り物、だとドラゴンに対する侮蔑と誤解されないと判断したのだけど、とっさにいい言い方が思いつかなかった。


「ふん、当然だろう?」


 スーは胸を張って威張っているが、奇妙な愛嬌があって微笑ましい。

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