第43話 前代未聞

 皇都に戻ってギルドに報告をしにやってきた。

 雪薔薇を十五本差し出しつつ、ロックドラゴンの撃退も俺が報告する。


「え、一日で二つのクエストが終わったのですか!?」


 受付嬢は目を見開き驚愕の叫びをあげた。


「た、たしかに本物の雪薔薇ですが……」


 鑑定能力を持っているらしい彼女は俺たちが納品したものを確認してうなずく。


「しかし、プリーナ平原にはS級モンスターがいたはずですが、戦わなかったのですか?」


 俺たちの様子から戦闘はなかったと判断したらしく、彼女はそう問いかける。


「一度も戦わなかったですね」


「S級のわりにはぬるすぎるクエストだと思っていたが」


 まずは俺が答え、スーが不思議そうに首をかしげた。

 彼女が言う通り単なる採取クエストにS級はおかしい。


 いくら距離があると言っても、雪薔薇は採取が難しい素材じゃないんだからD級あたりが妥当だろう。


 S級に設定されるだけの理由があったはずだよね。


「サンドワームやアイスボールはいませんでしたか?」


 念を押すように受付嬢に聞かれる。


「何にも見なかったですね。スーの存在に気づいて隠れていた可能性は高いんじゃないかと思いますが」


 俺が答えると、


「ああ、なるほど」


 受付嬢は納得した。


 彼女もスーの正体については聞かされているだろうと思ったけど、予想通りだった。


「となると困りましたね。ある程度の間引きも期待したのですが」


 受付嬢は頬に手を当ててそっとこぼす。


 サンドワームは大きなミミズ、アイスボールは下級の氷の精霊で、S級冒険者なら不覚を取る心配はまずいらない。


 採取ついでにある程度削ってもらおうというのが、冒険者ギルドの狙いだったわけか。


「失敗したな。知っていれば間引きもやったんだけど」


 独り言をつぶやくと、聞こえてしまったらしい受付嬢があわてる。


「いえ! こちらこそ不備がありまして! 横着と言うか、事情をお話する手間を省いた落ち度がありますので」


 そりゃまあそうなんだろうし、お互い謝って終わりにしよう。


「何ならもう一度依頼を受ければいいのではないか? われらなら大して手間ではあるまい」


 とスーが言い出す。


「残念だけど、お前がいる限り標的のモンスターが姿を見せない可能性があるから、俺たちに向いていない依頼だと言えるぞ」


「なんだと……」


 俺の指摘にスーが困惑する。


「スーが一緒だと難しいのは同感なので、他のパーティーにお願いしたほうがよさそうですね」


 ルーも賛成したことでスーは舌打ちした。


「なんて軟弱な奴らなんだ」


「スーを恐れない奴らこそ、俺たちが戦うべき相手って見方もあるから、そう腐るなよ」


 慰めたつもりだったけど、スーはふんと鼻を鳴らす。


「腐ってなどいない。有象無象の軟弱者に腹を立てているのだ」


「報酬を受け取って、何か食べに行こうよ」


 昼を買っておくのを忘れたので、何も食べてなくて腹ペコだ。


「いいですね!」


 俺の提案にルーがすかさず賛成する。


「ロックドラゴンの撃退は金貨5枚、雪薔薇の納品は金貨2枚です。受け取ってください」


 受付嬢に渡された革袋の中をたしかめてうなずいた。


「たしかに」


「S級依頼二つを一日で同時に達成だなんて、前代未聞の偉業ですね。今後【凍焔】のみなさまの名前は高まっていくと思います」


「どうも」

 

 受付嬢の褒め言葉を儀礼的に受け取り、俺たちは冒険者ギルドを後にした。


「何を食べるつもりなんだ?」


 スーが俺たちに聞いてくる。


「夕飯もあるから軽くすませようかと思うけど、ルーはどうしたい?」


「私も軽くに賛成ですね。今しっかり食べて、夜は軽食ですませるというのもアイデアではあるのですけど」


 どうやら俺だけじゃなくてルーも、今腹がすいているので今しっかり食べたいと思うタイプのようだ。


「スーは食べたいものはないのか?」


 一応聞いてみるけど、ドラゴンだからやっぱり腹はすかないのかな。


「特にないな。おまえたちが食べたいものをわたしも食べてみようかと思うが。ヒマだし」


 食欲じゃなくてヒマだからなのか。

 これもドラゴンらしさってやつだろう。

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