第37話 同時に
ルーと二人で朝食をすませたところでスーが食堂で合流した。
「いらないのか、朝食は?」
「ん? ……ああ、そうか。食事か」
俺の問いに対してスーは朝食じゃなくて、食事そのものの存在を思い出したような顔になる。
ドラゴンだから食べなくても平気なのかな。
「ちょうどいい。今から依頼を探しに行くんだ。S級にちょうどいい依頼があるかどうかわからないけどね」
ルーとスーがいるからS級じゃ物足りないと思うけど、SS級に認定されるまでの間は仕方ない。
金貨300枚持ってると言っても出ていく一方となると不安だしね。
「そうだな。わたしにふさわしい依頼があるのか楽しみだ」
スーは好戦的な笑みを浮かべる。
いったい何に期待しているんだろうかとルーと二人で呆れた。
冒険者ギルドに顔を出して、受付嬢に声をかける。
「S級パーティーの【凍焔】だけど、依頼はあるだろうか?」
「S級の依頼は二件あります。少しお待ちくださいね」
返ってきた答えは少々意外だった。
まさか二件もあるなんてね。
思わずルーを見ると、彼女も驚いた顔をしている。
おそらくだけどタイミングがよかったのだろう。
受付嬢は二枚の羊皮紙をカウンターの上に置き、俺たちに見せる。
「岩岳竜ロックドラゴンの撃退、プリーナ平原で雪薔薇の採取ですね」
ルーが読んでくれた。
「もしかして皇国語もできるのか?」
受付嬢に読んでもらおうと思っていた俺がびっくりすると、彼女は小さく微笑む。
「たしなみでございますが」
さすが元王族と言うか、一応教育は受けていたようだ。
共用語なら俺は一応何とかなるんだけどね。
「助かるよ」
「お役に立てて光栄です」
ルーはうれしそうだった。
「それで依頼だが」
受付嬢の困った表情を見て話を戻す。
「ロックドラゴンが現れたのはアゼン山脈のふもとらしいけど、プリーナ平原とはどれくらい離れているんだ?」
質問すると受付嬢は困惑したまま答えた。
「少しお待ちください。今地図をお持ちいたします」
どうやらS級なら普通に見せてもらえるようだ……ダメなら交渉をと考えていたんだけどね。
C級時代は見せてもらえなかったんだよなあ。
見せてもらった地図を見るとアゼン山脈は皇都の北に位置し、プリーナ平原は東に位置している。
「それぞれ馬で四、五日くらいだと思われます」
その距離ならベンちゃんだと日帰りも充分可能だなと、受付嬢の言葉にうなずく。
「二つの依頼を同時に受けたいのだけど、問題はないかな?」
「ど、同時にですか!?」
確認してみたら受付嬢は明らかに動揺して、一度奥に引っ込んでしまう。
「何か変なことを言ったかな」
「ドラゴン撃退が入ってますからね。同時にこなせる依頼じゃないという判断が出るかもしれません」
不思議そうにつぶやくとルーが苦笑しながら答えてくれる。
「すぐ終わるだろ? ロックドラゴンはしょせんロックドラゴンだ」
スーがつまらなさそうな顔で言う。
ドラゴン族の中でも特に強いアイオーンドラゴンからすればそうなんだろう。
「人間からすれば強敵なんだけどね」
苦笑して言い返す。
「フランでも楽勝だろ」
スーの答えは素っ気ない。
どうにもやる気をなくしてしまったようだった。
「プリーナ平原で何かあるかもしれないぞ?」
期待はうすいがそれは言わないでおこう。
スーがやる気をなくした状態で放置しておくのもあんまりよくないしね。
「そうだな。一応期待しておくか。わたしが知らないことが何かあるかもしれないし」
何とか彼女のやる気は回復したようで何よりだ。
「お待たせしました」
受付嬢の背後にはちらりとユーストスの姿が見える。
「二つとも受注で処理いたします。くれぐれもお気をつけくださいね」
と話す彼女は少し不本意そうだった。
本人は反対だけどギルドマスターのユーストスが認めたので仕方ない、というところだろうか。
ユーストスにしてみればアイオーンドラゴンもいるのに何を心配する必要があるのか、となりそうだけど。
とりあえず笑顔でうなずいてギルドを後にした。
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