第36話 一流は一流を知る
冒険者ギルドに入るとこわもてで筋肉隆々の大男たちがいて、こっちをじろりと見た後警戒するような色が瞳に浮かぶ。
「……ガキのふりしたバケモノが三人、何の用だ?」
「初見で見抜いた人はすごい久しぶりですね」
ルーが何やら感心しているが、実のところ俺も同意見だった。
みだりに騒ぎを起こさないように力をセーブすると、まだ十代ということもあってか舐められやすいのだ。
人は、と彼女が言ったのはスーはカウントしなければという意味だろう。
スーは最初から俺たちが隠した力をある程度見抜いていたような態度だったからね。
「ソルトレー子爵からの紹介でこのギルドに冒険者登録しに来たのですが」
離れたところでこっちをうかがっている職員にもよく聞こえるように、大きめの声を出す。
「ああ、話は聞いている」
階段から降りて来た若い男性エルフがそう言った。
「私がギルドマスターのユーストスだ。【凍焔】のフランとルーだね」
そう言って彼は緑色の瞳をスーに向ける。
「ほう。あのエルフ相当強いぞ」
スーはとてもうれしそうな声を出した。
彼女にとって大事な点はそこなのだろう。
ただ、彼女がうれしそうにするとなるとSS級に匹敵するのかもしれない。
皇国という大国の都で冒険者ギルドのマスターをやっているくらいだから、それくらい強くても不思議じゃない。
「話は聞いている。君たちを皇都で冒険者として活動することは認めよう。歓迎するには情報も実績も不足していると言わざるを得ないが」
ユーストスは淡々と話すが言ってることは正しいと思う。
ただでさえ冒険者は粗暴なはみ出し者がいるせいで警戒されやすいんだから。
「当然でしょうね」
ルーが俺にしか聞き取れないような小さい声で言った。
「これから勝ち取っていけばいいよ」
何でも最初はゼロからはじまるんだから。
「うん、冷静に受け止めてくれて何より」
ユーストスは俺の前に立ってこっちをじっと見つめる。
「君たちのことと乗り物のことはこちらで登録手続きをしておく。今日はさすがに困るけど、明日からは依頼を受けられるよ」
そして優しく言った。
「それはありがたいですね」
今日はさすがに依頼を受けなくてもいいかなという気分だった。
「何だ? 手合わせはなしか?」
スーはがっかりしたらしい。
「そんなしょっちゅう手合わせする必要はないだろう」
彼女らしいと思いながら苦笑する。
実力の検査といった名目で手合わせはあるものの、今回はすでに実力は知られているだろうからね。
アイオーンドラゴンを仲間にして、フェニックスと契約しているだけで充分すぎるはずだ。
味方として信じていいのかという点については、これからの行動で判断されるんだろうけどね。
「宿についておススメはありますか?」
「S級が泊まるなら【紅蓮】か【月の道】がいいだろう。どちらもギルドからあまり離れていない」
俺の質問に答えたユーストスはそう言って階段をあがっていく。
どうやら俺たちとやり取りをするためだけに姿を見せたらしい。
アイオーンドラゴンとフェニックスとの契約者、エルフとしては見ておきたかったというところか。
「これで用はすんだのか?」
「ああ」
スーの問いにうなずいて俺たちはギルドの外に出る。
「つまんないな」
スーは軽く舌打ちした。
「バケモノ三人って言われただろ? ここの冒険者は俺たちの力を見抜ける人がいるって思ったほうがいいよね」
俺は彼女をなだめる。
「一流は一流を知るという言葉がありますが、そういうことなのでしょう。私が一流かはさておき、【終焔】は強大ですし」
ルーのほうは納得したようだった。
元より好戦的じゃない俺たちにしてみれば、無駄な戦いを避けられるならそのほうが好ましい。
ギルドから十軒ほど離れたところにある【紅蓮】はちょうど三部屋あいていたので、そこで宿をとることにした。
「ここが人間の宿か」
スーは興味深そうな顔をして部屋の中を見回す。
木賃宿とは違って内装はしっかりしている。
「晩ご飯まで自由時間にしたいけど、スーは勝手に動き回らないでくれよ?」
「承知している。人間社会については学習中だからな。おまえたちに迷惑をかける意思はない」
スーはとても物分かりの良い答えを返してくれたので、ちょっと安心した。
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