第13話 金貨320枚(日本円で約3億2千万)
「これがS級ライセンスだ」
冒険者ギルドのマスターは疲れたような顔で金色のカードを差し出す。
「ありがとう」
礼を言うと背後にひかえるルーをちらりと見て言った。
「もっともあんたらは大都市でSS級になれるだろうけどな。うちの町じゃ無理だろうが」
ギルドマスターがそう言う理由は単純で、SS級認定クエストというものは存在していないからだ。
SS級として認定されるためには国難レベルの厄災を何とかするか、S級クエストをこなしまくるしかない。
前者はこの規模の町にはまず縁がなく、後者でもこの町に拠点を置くとどれだけ時間がかかるのかわからない。
S級以上の冒険者が大都市を活動拠点に移すのは無理もないことだ。
「お世話になりました」
一応礼を言っておく。
俺を受け入れてくれて、S級認定クエストに挑戦させてくれたことには感謝しかない。
「気にするな。やばい時あんたが助けてくれたらそれでいい」
ギルドマスターは白い歯を見せる。
中規模以下の町でもS級認定クエストの実施が可能な理由の一つが、彼が言った理由だ。
S級認定クエストを受けた町がピンチになった時は、駆けつけるという暗黙の了解が冒険者にはある。
「ああ。ルーと二人で駆けつけるよ」
俺一人だと遠方からじゃ時間がかかってしまうが、ルーのフェニックスならひとっ飛びだ。
なんせ馬車で五日かかる距離を数時間だったんだから。
「よろしく頼む」
ギルドマスターにそう言われる。
ルーもS級認定クエストを受けてほしいんだが、何か今ここで言える雰囲気じゃなくなってしまっていた。
この町にこだわる必要はないので移動した大都市で受けようか。
その前にベスビオ山で倒したモンスターたちの討伐証明部位を提出する。
「これはまたすごいな」
ギルドマスターも職員たちも圧倒されたように黙り込む。
「どれだけ強かったらこれほどモンスターを一人で倒せるんだ? いや、二人か?」
ギルドマスターが一瞬ルーを見る。
「その中には私が倒したモンスターはいませんよ」
彼女は微笑みながら否定した。
「レッドドラゴンをやったのは君だろ?」
彼女にそう声をかける。
俺と遭遇した時のレッドドラゴンは明らかにボロボロで、戦意がほぼなかった。
まだ生きていただけで、実質彼女が倒したようなものだろう。
「私は追い払っただけですので」
ルーはきょとんとする。
彼女がその気になれば焼き殺せていたのは正しいだろうが……ここで問答するのはやめておこう。
「とりあえず換金を頼みたい」
「わ、わかった。レッドドラゴン一体とサラマンダー五体だな」
ギルドマスターは冷や汗をかきながら鑑定し、顔をあげて結果を告げる。
「レッドドラゴンは金貨100枚、サラマンダーはサイズを考慮して五体で金貨220枚だな」
「あわせて金貨320枚か」
一気に億万長者になれたな。
「白金貨はうちじゃ扱ってないからな。申し訳ないが」
ギルドマスターに詫びられたので気にするなと笑う。
白金貨にかえれば3枚と金貨20枚になるので持ち運びが一気になるのはたしかだが、白金貨は使い道があんまりない。
「ルーは何か用事はあるか?」
彼女がこの町でやりたいことは何かあるか聞いてみるが、ゆっくりと首を横に振る。
「おそらくウィムラックとやらでもできるので」
彼女の言葉にうなずいた。
「じゃあ世話になった」
礼を言ってギルドを後にし、そのまま町を出る。
「とやらってことはルーはウィムラックの町に行ったことはなさそうだな」
立場上自由に出歩けたとは思えないので当然だが。
「ええ、楽しみではありますね」
ルーは微笑みながら言った。
「ウィムラックに着いたら拠点になる宿をまず探そう。その後、何かやりたいことはあるか?」
「買い物! 買い物に行きたいです」
俺の問いに彼女は笑顔で即答する。
「買い物か……」
買い物は選択肢にあったが、彼女が何を欲しがっているかなんて俺には予想もできない。
「そうだな。二人で行こうか」
「はい!」
ルーはうれしそうに笑って答える。
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