第12話 ひと騒ぎ

「あ、あれは何だっ!?」


「フェ、フェニックスだ!?」


 町の近くでルーと俺が降り立った時、遠くから騒ぎが聞こえて来た。


「まずかったでしょうか」


 ルーは気まずそうな顔でこっちをうかがう。


「まあ箔付けにはなっただろうから気にするなよ」


 騒ぎになってしまったが、この際許してもらえたらいいなと思った。

 S級になれば多少のことには目をつむってもらえるはずだから。


「ところでルー、鎧を脱いだほうがいいんじゃないか? 身元を隠すという意味では」


 気づくのが遅れてしまったけど、まだ致命的じゃないと信じて告げる。


「そうですね……フラン様が近くにいらっしゃるなら問題はないでしょう」


 彼女はフェニックスを帰したあと鎧を脱いでいき、腰に下げていたアイテム袋に収納した。


 鎧が入るってことはかなり上等なものなんだろうし、さすが王族だけはある。


 鎧の下は普通の服だったので、ファッションにはあんまり気を遣わない性格なのかなと思った。


「では参りましょう」


「ああ」


 俺たちが門をくぐると、前方から武装した兵士の集団がやってくる。


「何かあったのでしょうか?」


 ルーが不思議そうな顔をしたので、この子は割と天然なのかもしれないと感じながら答えた。


「俺たちが乗ってきたフェニックスが原因だろう。SS級相当のモンスターなんだから」


「ああ、なるほど」


 本当に気づいてなかったらしく、ルーはぽんと手を叩く。


「乗ってきた……? あれはあなたたちの契約モンスターということか?」


 兵士の中で明らかに上等な装備をまとった銀髪の中年男性が問いかける。

 迫力もあって彼こそが兵士たちのリーダー格なのだろう。


「ええ、そうです。契約モンスターを使役することは、法律上何ら問題はなかったはずですけど?」


 ルーは王族らしい毅然とした態度で法律について話す。


 美しい少女の堂々とした姿に兵士たちは威に打たれたようで、ざわめきすら起こらない。


「失礼。こちらは大都市ではないのだ。未知のモンスターに接近されたら騒ぎになることは許してほしい」


 銀髪の中年兵士だけは気圧されながらもそう答える。


「ごもっともです。お騒がせしました」


 相手は町長直属だろうということもあって、俺も謝っておく。


 理不尽な言いがかりをされたならともかく、みんなを驚かせないように気をつけてくれというのは正当な要求だからだ。


「いや、わかってくれたらそれでいいんだ」


 冷や汗をかきながら兵士は答える。


 SS級モンスターと契約を交わして従えている冒険者とのトラブルは、できるだけ避けたいからだろう。


「ところであなたたちの名前を聞いてもいいかな? 高名な冒険者の名前はぜひ覚えておきたい」


 兵士たちにしてみれば当然の質問だろう。


 どういう冒険者にどういう契約モンスターがいるのか、把握しておくことでトラブルに対応しやすくなるんだから。


 ただまあ俺たちの場合はちょっと困ったことになる。


「私はルー。名もなき冒険者です」


 ルーは意を決したように言うが、これはかなり無理があるだろう。


「俺はフラン。この町の冒険者ギルドでS級認定クエストを受けていた者です」


 俺はきちんと名乗る。


「S級認定……あなたが?」


 兵士たちは怪訝そうになったが無理もないことだ。


「こっちのルーは冒険者に今まで興味なかったみたいで、これから登録するところなんですよ」

 

 そういうことにしておくのが一番無難なので、打ち合わせもせずに勝手に説明する。


 ルーくらいの年頃だと自分の才能に気づく、あるいは眠っていた才能が目覚めたことで初めて冒険者になることを考えるということはまだあり得るからだ。


「なるほど……フェニックスと契約できたので、冒険者になることを考えたわけか」


 中年兵士は納得したようである。

 ルーは反応せず、俺の言う通りだという態度をとってくれたのも大きい。


「できればこの町で登録したいんですが、かまいませんか?」


 俺が申し出ると中年兵士は困った顔になる。


「かまわないのだが、この町にはSS級冒険者への依頼なんてない。もっと大きな都市に移動することをおススメしたい」


「……ここから近い大都市はどこになります?」


 俺は彼に問いかけた。

 こちらの方面にはあまり来ないので、よく覚えていないのである。


 アイルが地理に強かったので任せていたとも言うが。


「西にずっと進めば王都に。北に行けばクラカマス、東に行けばウィムラックに出るが」


「じゃあ東にしようかな。ありがとう」


 礼を言った後俺は冒険者ギルドに向かう。

 S級合格だけはしておきたかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る