第11話 ルーの乗り物
「そう言えばフランはどうしてこの山に来たのですか? 今、この山は私のせいでモンスターや精霊が活性化していて危険でしょう?」
ルーの問いは今さら過ぎるがもっともだと思ったので答える。
「S級認定クエストでベスビオ鉱石を採りに来たんだよ」
「S級認定……? フラン様はまだS級ではなかったのですか?」
ルーは信じられないという顔でまじまじと見て来た。
「そうだよ」
別に隠さなくてもいいと思ったので、事情をかいつまんで説明する。
「俺も元々無能だ、迷惑だと思われて仲間たちから追い出されたのさ」
「まあ、何ということでしょう。そんなことが」
ルーは驚き、悲しみ、同情してくれた。
ぶっちゃけアイル以外はもうどうでもいいんだが、果たしてこの気持ちはわかってもらえるだろうか。
「見返したいとは思わないのですか?」
ルーに聞かれたので答える。
「S級、SS級へと上り詰めていけば向こうは勝手に後悔してくれるだろうし、俺を追い出した見る目のなさを笑われることになるさ」
まったく思うところがないわけじゃないので難しい。
「追い出された仕返し」ができるめどが出来上がっているおかげで、現在冷静でいられるんじゃないかと自分でも思うのだ。
「何とも大きな器量をお持ちなのですね。私でしたら復讐を考えるでしょうから、フラン様の素晴らしさを尊敬します」
ルーは本気で言っているのだろう。
敬意と好意がたっぷりこもったキラキラしたまなざしで見つめてきて、少し背中がむず痒い。
「ありがとう。ところで戻るのを急いでもいいか? 時間が来るとクエストが失敗扱いになるんだ」
早歩きで行きたいと思って聞いたら、思いがけない提案をルーがする。
「あ、はい。それでしたら、私が所有する乗り物をお使いになりますか?」
「乗り物?」
追放されたのに乗り物なんて持っているのかと疑問を抱く。
「ええ。この山の地下に眠っていたモンスターなのですが、私が来たことで目覚めたので倒して主従契約を結んだのです」
ルーの説明に納得した。
彼女がその気になればS級モンスターでも屈服させて従えることができるだろう。
「へえ、じゃあ山から下りたら見せてもらおうかな」
「喜んで!」
会話をいったん中断して早歩きで山道から抜け出て、広い場所に出たところでルーは目を閉じて詠唱する。
「契約者よ、わが下へ来たれ。そしてわが翼となって空を翔けよ」
専門外の俺にとってはけっこう本格的な呪文だと感じられた。
魔力の奔流と光の渦が発生して、一体の大きな火の鳥が出現する。
黄金の瞳とくちばしを持った強大な魔力と存在感を備えた火属性の鳥ってもしかして……。
「ルー、こいつはフェニックスじゃないのか?」
「ええ、そうですよ」
驚きを隠せない俺に対してルーはそれがどうしたんだろうと言いたそうな顔で答える。
フェニックスは「不死鳥」「火の神鳥」の異名を持つ最強クラスのモンスターで、その戦闘力は間違いなくSS級だ。
ルーが屈服させて従えられるとは……というのはちょっと彼女に対して失礼だろうか。
なんて考えているとフェニックスが俺に向かって頭を垂れた。
「この子もフラン様の圧倒的強さを感じ取って認めたみたいですね」
ルーはうれしそうに言ってフェニックスの頭をなでる。
まさか戦わずにフェニックスに認められるとは思わなかった。
また一つ強くなったことを実感していると、ルーはひらりとフェニックスの背中にまたがる。
「フラン様」
彼女の手をとって俺はフェニックスの背中にまたがるという初めての体験をした。
意外と乗り心地は悪くない……馬とは違う、何とも形容しがたい感覚なのは否定できないが。
「どちらに行けばいいですか?」
「ドルトンの町だな。あっちだ」
ルーに場所を分かれというのは無茶だろうから、俺が逐一指示を出すことになりそうだ。
「わかりました」
ルーはそう言うとフェニックスの胴体部分を軽く蹴る。
フェニックスは力強く羽ばたいて空に舞い上がり、走る馬よりもさらに速いスピードで飛ぶ。
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