第10話 【終焔】を圧倒する【絶対零度】(無自覚)

「ところが十歳になると外れと思われたスキルが【終焔】に成長し、一気に強くなったのです」


 ウルスレジナ王女はそう話した。


「レッドドラゴンを焼き、S級冒険者を即死させるほどの力に成長した私は封印され、追放されることになりました」


「封印?」


 その割には普通に会話しているし、力も使えているようだが。

 俺の疑問が伝わったのか彼女は自分の鎧を見る。


「これは【封火の鎧】という国宝です。SS級の火属性魔法ですら寄せつけず、装着すれば火の力を封じ込める力を秘めています。私にはあまり効果がないのですが」


「それはすごいね」


 大国の国宝とかSS級ですらとか、すごい単語が普通に飛び出ることにまず感心した。


「でもでも!」


 ここでウルスレジナの表情が明るくなって、熱っぽい視線が向けられる。

 

「あなたは違う……私の力をすべて受け止められますよね?」


「今のところはな」


 と俺はあいまいな言い方をした。


「さっきくらいの炎なら大丈夫だが、あれが全力の一割程度とか言われるとさすがにちょっと自信がなくなる」


「ああ、誤解させてしまったみたいですね。ごめんなさい」


 ウルスレジナは申し訳なさそうに謝る。


「この鎧は力を抑えたいのに抑えきれない時に役立つのです。力を使いたい時には無意味なのですよ?」


 国宝を無意味と言い切るってかなりすごいんじゃないのか?

 なんて他人事のように思ってしまう。


「あなたがいればもしかしたらこの鎧を脱げるかもしれませんが……」


 ウルスレジナは遠慮がちに青い瞳をちらちら向けてくる。


 方向性は違う気もするが本人が意図しない、制御できない力で追放されたのは俺と同じだ。


 共感できるし同情もしてしまう。


「試してみるか?」


「よろしいのですか?」


 ウルスレジナはすがるように見つめてくる。


「ああ。SS級ですら手に負えない君の力に俺の力がどこまで及ぶか、たしかめてみよう」


 不安にさせないようできるだけ自信ありげに言った。

 力をゆっくりと解放する。


 俺のスキルがどうやればいいか心にささやきかけて来た。


「これは……素晴らしい……」


 不安そうだったウルスレジナは一転して歓喜を浮かべる。

 うっとりとした顔は色っぽい。


 俺のポテンシャルを彼女は早くも感じ取ったらしい。


「触れていただいてもいいですか?」


 彼女の要請に応じて鎧の肩の部分に右手を置く。

 俺の手から青い光が、彼女の全身から赤い光が走って溶けあうように消える。


「ああ……力が抑え込まれます……私だけじゃ頑張ったところで抑えられなかったのに」


 ウルスレジナは歓喜の声をあげた。

 こっちに向く目には大いなる希望で満ちていた。


「ありがとうございます! あなたは私の恩人です!」


「役に立てて何よりだよ」


 彼女のような美少女に感謝されて悪い気はしない。


「あなたが一緒なら私はこのベスビオ山から出ることもできるのですけど……」


 ウルスレジナに言われる。


 無条件でホイホイ引き受けるのもどうかという気はするが、ずっと山に隔離されているのも気の毒だ。


「いいけど、無償ってわけにはいかないな。一緒にパーティーを組んで冒険者をやってもらいたい」


 俺はそう要求する。

 おそらくウルスレジナはSS級に近しい力を持っているのだろう。


 俺たちがコンビを組めばとても強力なパーティーになれるはずだ。


「そんなことでいいのですか?」


 ウルスレジナは驚いたのか目を丸くしている。


「冒険者になったら色んなところに行けるし、むしろ私のほうからお願いしたいくらいなのですけど」


「決まりだな」


 一気に戦力アップできるし、俺にとって好ましい結果だ。

 ウルスレジナがすごい美少女だという理由があるのは否定しないが。


「やりました! 神を今日の出会いに感謝いたします」


 ウルスレジナは両手を重ねて天の神に祈り、感謝の言葉を捧げる。

 大げさだなとは思わない。


 俺だって自分の真の能力に気づいた時は、感謝したくなったからだ。


 祈りを終えたウルスレジナはハッとした顔になって俺の顔を見る。


「すみません、まだあなたのお名前をうかがっていませんでしたね」


 うん、俺のことは何も知らないよな。


「フランだ。平民だから普通にフランと呼んでくれ」


 でもまあ、最初の出会いなんてこんなものかもしれないと思って名乗る。


「フラン様。素敵なお名前ですね」


 ウルスレジナのような美少女に微笑と一緒に褒められると背中がくすぐったい。


「様はいらない。俺は君のことはなんて呼べばいい?」


「ルーとお呼びください。大丈夫だとは思うのですが、念のためウルスレジナという名前は伏せておきたくて」


 王族って面倒くさそうだからな……目を伏せて頼む彼女にうなずいて見せた。

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