第14話 ウィムラックの街

 到着したウィムラックの街は頑丈そうな石の壁に囲まれた大きな都市だった。

 こんな大都市で名をあげて、ひとかどの冒険者になりたいと思ったものだ。


 そしてあの頃の夢を現実するために足を踏み入れることになる。


 今回は遠く離れた場所にフェニックスは降りたので、今のところ騒ぎになっていないようだ。


「フラン様?」


「……そろそろ呼び捨てにしてくれないか」


 不思議そうな声をかけてきたルーにお願いをした。

 

「呼び捨て、ですか?」


 彼女にはためらいがあるらしいが、俺が気恥ずかしい以外にも合理的な理由はきちんと存在している。


「ああ。素性がバレるような事態は避けたいだろう? 今のルーの言葉遣い、冒険者の中に入ると違和感が大きいよ」


 さすがに王族だとすぐに特定されることはないだろうが、いいところの出身じゃないのかと疑われることはありえた。


「元貴族の冒険者、実はそこそこいるからね」


 俺自身、あんまり遭遇したことはないが家に残れない三男四男や、没落した家の人間が人生の逆転劇を狙って参入してくる。


「そう言えばそういう話を聞いたことはあります」


 ルーはハッと気づく。


「ふ、フランさん……」

  

 そしてなぜか恥ずかしそうに言った。


「うん、それでいいんじゃないかな」


 さんづけで呼ばれることはそれなりにある。

 神官など教会関係者に多いパターンだ。


 単に美人で上品でていねいなだけだと、そっちの可能性を人々は思いつくだろう。


「はい」


 ルーは恥ずかしそうにしているのがよくわからないけど、王族だから男性との接点があまりなかったとか?


 その割には……いや、想像だけで進めるのはやめておこう。


「俺としてはルーにはS級になってもらってから他の国に行きたいんだけど、君はどう思っている?」


 彼女の意思をたしかめると、彼女はこくりとうなずいた。


「ええ。他国、皇国や連邦に行けば身元がバレる可能性はかなり低くなりますから。王国はもちろん、上層部が親交のある共和国も危険だと思います」


「やっぱりね」


 王国はともかく、南の共和国にもリスクはあるのか。

 

「だとするとウィムラックを選んで正解だったか」


 ウィムラックは王都から見て東に位置するし、さらに進んでいけば連邦に出る。

 北に進めば皇国の領地になるので、リスクを考慮するなら正しい選択だった。


「ええ。知らずに引き当てるフランさんはすごいなと思いました」


 ルーは感心したように微笑むが、運がよかっただけである。

 ウィムラックの入り口で兵士に冒険者ライセンスを提示した。


「おお、S級の方ですか!」


「ウィムラックへようこそ!」


 兵士たちは礼儀正しく、ていねいに接してくれる。


 S級以上になるとていねいな対応を受けられる頻度がぐんと増えるという話が、実話だったようだ。

 

「冒険者ギルドはどこです?」


「まっすぐ進んでいただいて、右側に見えてくる白い屋根の建物です」


「ありがとう」


「いえいえ!」


 俺の問いにはきはきと答えてくれて、気持ちよく別れることができた。

 街には活気もあってこっちまで楽しくなりそうだ。


「いい街ですね」


 来て早々にルーがそんな感想を漏らす。


「うん」


 こういう街を守りたくて冒険者になりたかったんだよな。

 途中寄り道をしてしまったけど、今の俺ならもう大丈夫のはずさ。


 まっすぐに冒険者ギルドに入ると、長身の二人組にいきなり絡まれる。


「よう、すげえ可愛い子連れてるじゃないか」


「ちょっと俺たちにもおすそ分けしてくれよ」


 せっかくいい気分だったのに一気に台無しになってしまった。

 

「凍れ」


 とりあえず無礼な二人組の両手足を凍らせる。


「うおおお!?」


「な、何だ!?」

 

 両手足を一瞬で凍らせた二人は情けない悲鳴をあげて、周囲の注目を集めた。


「何だ、アンゴウ兄弟か」


「また女連れにちょっかい出して、返り討ちか」


「この冒険者ギルドの恥さらしだよな」


 誰も彼らを心配したり加勢しようする者がいないことに安心する反面、聞こえてきた内容にため息をつきたくなる。


 ギルドの恥さらしって言われるような奴らなら、除名処分にしたっていいだろうに。


 とりあえず彼らを放置して受付に行くと、若い女性がにこやかに出迎えてくれる。


 アンコウ兄弟とやらが撃退されるのはいつものことらしいな。

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