第15話 青い翼──崩壊と転落
「【青い翼】は今をもって解散する」
アイルは疲れ果てた顔で言った。
「え、ちょっと、待ってよ!」
リリが愕然として抗議の声をあげる。
「悪いけど決定は覆らない。リーダーは僕で、サブリーダーは抜けたフランだからね。君たちの意見は必要ないんだ」
アイルは表情を消して淡々と説明した。
パーティーの解散権は原則としてリーダーとしてサブリーダーで決まる。
絶対のルールではないが、それを言えば仲間たちの承認もいらないことに変わりはない。
「り、理由は?」
蒼白になりながら魔法使いの少女が聞く。
「本当に言う必要はある?」
アイルの穏やかだが容赦ない質問に少女たちは黙る。
クエストこそ失敗してはいないが、彼らの関係は完全に最悪になっていた。
「で、でも、あんただって改善しようとしなかったじゃん!」
リリがきっとなってアイルを責める。
最近地方の若者たちの間で流行しはじめた表現を使うなら「逆おこ」というやつであった。
怒られる立場の人間が、開き直って怒りをぶつけるみっともない行為とされている。
「そうだね。だから責任を取ってパーティーを解散する」
アイルの言葉にも表情にも温度というものがなかった。
「うっ……」
仲間の少女たちはかつてのリーダーのあまりの変貌ぶりに何も言えなくなる。
「じゃあ僕はこの町を出ていくよ。さよなら」
「え、私何も聞いていませんけど」
この時初めてゾエが表情を変え、リリとミレが驚きと憎悪を込めて彼女を見た。
乙女の直感でこの神官はある程度事情を先に知らされていたのだと察したのである。
「言ってなかったのは君を連れて行くつもりがないからだ」
アイルはゾエを突き放すと、ふり向きもせず早歩きで立ち去った。
残されたのは呆然とした神官と、彼女を裏切り者を見る目でにらむ二人の少女たちである。
「はっ、結局あんたも捨てられたんだね」
リリは今さらゾエを問い詰めようとはせず、最も効果がありそうな言葉を嘲弄を込めて叩きつけた。
「私たちを裏切って自分だけはアイルさんに同行しようとして、土壇場で切り捨てられた。今どんな気持ち?」
ミレは自分が惨めな境遇だと自覚していたので、せめて憎い裏切り者の心をへし折ってやろうと煽る。
その意味でリリとミレは共闘関係にあった。
「そ、そんな……」
だが、ゾエは彼女たちの言葉を聞いていなかった。
アイルに裏切られて捨てられたショックで、頭が真っ白になっていたのである。
「ふん、いい気味だね」
リリは嘲笑うが彼女たちの苦難はここからだった。
アイルのことをいったん横に置いてパーティーに新しく加わろうとしたが、誰にも入れてもらえなかったのである。
「何で!?」
当然リリは荒れた。
「私たち、C級になったのですよ? なぜD級にすら断られるの?」
ミレも隣でやけ酒を飲む。
C級に断られるのは仕方ないと彼女たちもわかるが、なぜ格下にも相手にされないのだろうか。
ゾエは少し離れた席で一人やけ食いをしている。
「なんだ、知らないのかい」
声をかけてきたのは女性にしては長身で大柄なB級の剣士だった。
「あんたらは今悪い意味でうわさになってるよ。仲の良かったアイルたち【青い翼】を内部崩壊に追いやった魔女ってね」
「……はあ?」
リリとミレにとってとうてい承服しがたい内容である。
「何言ってんのよ? フランの奴の外れスキルがあたしたちの体まで冷やして迷惑だっただけよ? あんたも女なら、どれだけきついかわかるでしょ!?」
「そうだね」
B級の女性剣士はうなずいた。
「だが、問題なのはその後さ。あんたらどんどん上手くいかなくなっただろう? それでこっちも気づいたんだよ。フランは外れスキルが迷惑でも必要な男だったんだと」
リリとミレは不愉快そうに顔をしかめ、ゾエは気まずそうにうつむく。
リリとミレは今のこの反応こそ、他の冒険者たちに嫌われている理由だと気づいていない。
リリ、ミレは冒険者として活動が困難になり転落がはじまる。
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