第31話 アイオーンドラゴン2

「やっぱりダメか」


「事情がわかっただけよしとすべきでしょうね」


 ルーもアイオーンドラゴンと事をかまえることに反対のようだった。


「何だ、弱腰だな。力ずくで追い出してやるという気概はないのか?」


 アイオーンドラゴンはがっかりした声を出す。


 ドラゴンは強者を好む者が多いといううわさは本当なのかなと思った瞬間だった。


「追いはらうようなことはしてないだろうに」


 ついつい言い返してしまう。


 被害が出ていたら高額の報酬が用意され、SS級を集めて討伐チームが設立されただろう。


 S級二人に調査して来いというある意味無茶な依頼なのは、目の前のアイオーンドラゴンがまだ脅威かどうかわからないからだ。


「ハ、わたしにアリをいたぶる趣味はないからな」


 アイオーンドラゴンは皮肉っぽく笑う。

 人間をアリ扱いする傲慢さとそれが許される強者の迫力を感じる。


「そうだ。おまえたちの力を見せろ。気に入ったら頼みを聞いてやろう」


 アイオーンドラゴンの口ぶりから愉悦が伝わってきた。


 俺たちをいたぶる趣味はないようだが、からかって困らせて楽しむことはするらしい。


「わかった」


「フランさん?」


 ルーが驚いたようにこっちを見る。


「俺たちが恐れていた事態は避けられそうだからな。とりあえず腕試しのつもりでやればいいさ」


 これだけ理知的なら怒り狂って【クロノスロア】を街に叩きこむという展開を、ほとんど恐れなくてもいいだろう。


「わかりました。どちらからいきますか?」


「まずは俺からだ」


 ルーからの問いかけに答えて少し前に出た。

 彼女は封印を解いたり、ベンちゃんを呼べばそれだけで力を証明できる。


「俺が気に入られなくても挽回の余地を残せるからな。その時はよろしく」


「フランさんなら大丈夫だと思いますが……承知いたしました」


 俺たちの会話を興味深そうにながめていたアイオーンドラゴンは、視線をこっちに固定した。


「まずはおまえか? 何をしてくれるんだ?」


「俺のスキルは凍結だ。お前を凍結させてやるよ」

 

 あえて強気な姿勢を見せると、アイオーンドラゴンは愉快そうに笑う。


「それは面白い。強いスキルだとたしかにわたしにも届く。楽しみだ」


 凍結系スキルはアイオーンドラゴンにも有効なのか。

 あっさり教えてくれたあたり、圧倒的な余裕がうかがえる。


「凍れ」


 ひとまず軽くけん制かわりのつもりでアイオーンドラゴンの足を凍らせてみた。


「ほう? そこそこやるが、ぬるいな」


 アイオーンドラゴンがそう言うと凍った足は一瞬で元通りになる。


「やっぱり強い相手だとレジストされてしまうか」


 どんな魔法、スキルでも同じなので、結局は魔力と戦闘力が重要だ。


「フランさんのスキルがレジストされた?」


 何かルーが驚いているけど、強いドラゴンならそんな不思議なことじゃない。


「次はないのか?」


 余裕たっぷりに聞かれたので、出力をあげて第二撃をくり出そう。


「全て凍えろ」


 アイオーンドラゴンなら死ぬ心配もないと思って力を解放し、全身を凍りつかせる。


 ほとんどのモンスターはこれで即死だろう。

 数秒ほど経ってアイオーンドラゴンの体を覆った氷は砕ける。


「今のはかなりよかったぞ。少しだけひやりとした」


 アイオーンドラゴンは平然と楽しそうな笑い声を立てた。


 レッドドラゴンが即死する攻撃だったんだけどな……やっぱりこっちのほうが断然強いのか。


「かなり強いじゃないか。名前は何という?」


「フラン」


 問いに正直に答えると満足そうに首を上下に振った。


「よい名前、そしてよい強さだ。今のが最強の攻撃なのだろうが、脆弱なヒトにしては見所がある」


 アイオーンドラゴンの言葉に俺は反応に困る。

 最強の攻撃はまだ出していないのだがが、言っていいんだろうか。


 ここは流したほうが穏便にすむんじゃないか?


「まだ手があるなら見せてみろ。わたしは満足していないぞ?」


 まるで俺の心を読んだようにアイオーンドラゴンは言う。


「わかった」


 このドラゴンなら大丈夫だろうと判断する。

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